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《「タマとったる!」から一転》小泉悠・高橋杉雄が感じ取った「プーチンの弱気」

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反攻は「地を這う戦い」

 高橋 反転攻勢の経過を見ていると、ウクライナ側は厳しい戦いを強いられていますね。

 小泉 報道では「3つの集落を奪還」、「7つの集落を奪還」と、日ごとに順調に成果をあげているように見えますが、実際の動きを地図上で確認すると、本当に地を這うような戦いです。東京で例えると、山手線の駅を1駅ずつ取っていっているイメージ。距離で考えるとそんなに大きな成果ではないし、前述の通り、西側からもらった兵器も相当な数を消耗している。短期間で終わる攻勢にはならなそうです。

 高橋 今回にかんして言えば、ロシア軍が完全に防御を固めて待ち構えているところに、ウクライナ軍が攻め入っている。そう簡単な反転攻勢にはならないと、皆が予想できていましたよね。前線陣地を突破するまで戦線は動かないし、それまでは兵士たちの血であがなうような戦いが続いていく。

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 小泉 ウクライナの反攻に備え、ロシア側は3層の要塞線から成る防衛陣地帯を構築してきました。実は現時点でウクライナは、この陣地帯にまだ接触も出来ていない状態です。ロシア軍は陣地のはるか前方に部隊を出して、機動的に防御をおこなっていることになる。

 はたしてロシア軍は、兵力に余裕があるから部隊を前に出しているのか、戦略縦深がないから前に出さざるを得ないのか……。

 

 高橋 塹壕戦を見ていると、ロシア軍はあくまで守りに徹しているように感じます。通常なら塹壕は、予備兵力を機動的に出したり下げたりできるよう、あみだくじを横倒しにしたような形にしなければならない。第1線、第2線、第3線と、横に線を引くだけではダメで、それぞれを移動できるよう繋ぐ必要があります。ところが、各種衛星のデータを見てみると、あみだくじの縦線をつなぐ横線に当たる部分が見つからない。恐らく、陣地ごとに防衛する形しか取れていないのではないでしょうか。

 小泉 ロシア軍も強固に抵抗しているものの、すぐ後ろは海ですからね。文字通り「背水の陣」で、心理的に苦しい状況に立たされている感じもあります。ウクライナ・ロシア双方にとって苦しい戦場であることは間違いありません。