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《「タマとったる!」から一転》小泉悠・高橋杉雄が感じ取った「プーチンの弱気」

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ダム決壊はロシアがやった?

 小泉 最初は判断がつきませんでしたが、時間が経って様々な判断材料が出てきて……結局そうなんでしょうね。そもそもカホフカダムはロシアの支配下に置かれていましたし、決壊のタイミングもウクライナの本格的な攻勢が始まる直前でした。さらに、ドニエプル川の洪水でウクライナの渡河作戦は当面不可能となり、結果としてロシアが利を得た形になっています。

 高橋 かつ、地震波のこともありますよね。ノルウェーの研究所によると、ダムが決壊したのと同時刻に、同じ場所で爆発があったことを示す振動を観測したとのことでした。

 小泉 つまり、経年劣化による自然破壊ではなく、人為的に爆破されたということですよね。決壊から数日後、ウクライナ保安局は、ロシア側による爆破を示す通話を傍受したとして、音声を公開しています。こちらは情報機関が出してきたものなので、基本的には眉唾ものだと思っておいたほうがいいですが。

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 高橋 通話記録って、これまでにも何回か出てきているんだけど、大体が怪しいですよね。

 小泉 ウクライナの情報機関も、元を辿ればKGBなので……。両者ともにあまり信用は出来ないのですが、今回にかんしてはロシア側がやったと思わざるを得ません。

 話を反転攻勢に戻すと、ウクライナは反転攻勢で、いきなりドイツの主力戦車「レオパルト2」を出してきましたよね。レオパルト2のみならず、アメリカの歩兵戦闘車「ブラッドレー」やフランスの装輪装甲車「AMX‐10RC」を前線に投入し、ロシア側に次々と破壊されています。西側の装甲戦力を、決定的な打撃のために置いておくことはせず、最先方でどんどん消費しているわけですが、この状況をどうご覧になっていますか。

小泉悠氏 ©文藝春秋

 高橋 レオパルト2について言えば、正面装甲が堅いわけですから、戦線の突破に用いようとするのは納得できますよね。一方で、AMX‐10は装甲が弱く、戦車とは撃ち合えません。それでも出してきているのは不思議ですが……欧米に使っているのを見せたいんですかね?

 小泉 うーん。一つ考えられるのは、西側の戦車を使ったほうが、継戦能力を早期に失わずに済むと判断したのかもしれません。要するに、戦車や戦闘車を第一線陣地に突っ込ませる際、西側製のほうが丈夫なため、乗員の生き残る確率が高まるんですよね。熟練したクルーを失わずに済むという利点があります。

 高橋 確かに。破壊されたブラッドレーの映像を見ていたら、乗っていた歩兵は生きたまま、全員脱出していました。撃破されたレオパルト2も、正面装甲は抜かれていない。

 小泉 西側兵器の防護性は、今のところ「悪くないな」という気がしています。結局、戦闘車両自体は、アメリカが新たな軍事支援パッケージで“おかわり”を出してくれるわけですよね。また、上手くいくかは分かりませんが、ウクライナのレズニコフ国防大臣が、ドイツに追加の戦車供与を呼びかけている。装甲車両の損失はある程度補うことが出来るため、人間をちゃんと生き残らせることが優先なのかもしれません。