“プリゴジンの乱”勃発
高橋 私が最近気になるのが、プーチンのバイタリティが低下したように見える雰囲気です。明確な何かがあるわけではないのですが、なんとなく受け身じゃないですか?
小泉 すごく分かります。僕が知っているプーチンって、ほとんどヤクザの親分のような人間なんですよ。自分のメンツを潰されるようなことがあれば、「タマとったる!」くらいの勢いで、人前で激しいことを言わないと気が済まない。
ところが最近は、戦争について具体的なことを何一つ言わなくなりました。発言の場があっても「最後に我々が勝つ」と抽象的な言葉ばかりで、あれはロシア人から見ても、「プーチン老いたな」と思わざるを得ないみたいですね。
高橋 クレムリンへのドローン攻撃や、カホフカダムの決壊についても、何も言っていませんよね。
小泉 そうそう。クレムリンにドローンなんて一番許しがたい行為のはずですが、基本的にダンマリを貫いている。プーチンはこれまである種の「ピカロ(悪漢)」として君臨していたわけですが、ここに来て指導者としての陰りを感じます。
6月23日には、ロシアの民間軍事会社・ワグネルの創設者であるプリゴジンによって武装反乱事件も起こりました。こちらはわずか1日で終息しましたが、肝心のプーチンは何もしておらず、最終的にはプリゴジンのベラルーシ亡命を容認してしまった。
高橋 プリゴジンの目的は結局のところ、ワグネルの正規軍への編入阻止だったのでしょう。「ロシア軍に攻撃された」と真偽不明の情報で騒ぎを起こし、政権にワグネルの現状維持なり、以前プリゴジンが要求した国防省の高官ポストなりを、受け入れさせることが狙いだったのではないでしょうか。
プリゴジンはもともと主戦論者ですから、ウクライナとの戦争をやめさせるつもりはなかったし、戦争に悪い影響を及ぼすのも避けたかったのではないかと思います。
小泉 今回のプリゴジンの乱が、作戦・戦術レベルで及ぼす影響は恐らく小さいでしょうね。乱がごく短期間で収まったため、前線のロシア軍の配置には大きな変化は見られず、反転攻勢を仕掛けるウクライナ軍は、引き続き分厚い防衛線に手を焼くと思われます。
他方、戦略的に見ると、今回の件はロシア政府の戦争指導の危うさを露呈させました。中長期的な視点で見て、プーチンの権威の失墜は否定できない。戦争が長引くと仮定すると、政権にとって有利であると見られていた「時間」のファクターが、逆に不利に働くかもしれません。
(本稿は23年6月15日に「文藝春秋 電子版」で配信したオンライン番組をもとに記事化したものです)
◆
「プーチンが元気ないぞ」全文は、月刊「文藝春秋」2023年8月号と、「文藝春秋 電子版」に掲載されています。
【文藝春秋 目次】現代の知性24人が選ぶ 代表的日本人100人 藤原正彦、保阪正康、板東眞理子、原田マハほか/SMAPはじまりの日 鈴木おさむ
2023年8月号
2023年7月10日 発売
1500円(税込)