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自前のアナウンスで清酒がバカ売れ

 寺本さんは「酒が売れる車掌」としても、知る人ぞ知る存在である。トロッコ列車で車内アナウンスをすると、高森駅の売店で販売している南阿蘇鉄道限定の清酒が飛ぶように売れる。それだけではない。「ジョークを交え、お客様に合わせた話で盛り上げる」と社内では評判だ。

 どのようなアナウンスをするのか。寺本さんは「特別なことを話すわけではありません。トロッコ列車のアナウンスはテープで流れるようになっています。でも、時代に合わない内容になっていたり、面白くないなというのがあったりすると、自分でマイクを握ります」と言う。

 広さ752平方mの至るところから湧き水が出ている明神池、城の形をした「阿蘇下田城駅」、峡谷の高さ約60mの地点に架けられた第一白川橋梁などでは自前のアナウンスをしてきた。

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 清酒については、トロッコ列車が高森駅に戻って来る寸前に紹介するのがポイントだ。

「終点の高森駅の近くには『れいざん』という銘柄で醸造している酒蔵があります。この酒蔵が南阿蘇鉄道を応援するために、お酒を造ってくれました。ラベルが切符の絵柄になっていて、行き先はなんと『南阿蘇鉄道の復興ゆき』になっています。ただし、高森駅の売店でしか売っていません!」

 というような内容をしゃべると、列車を降りた乗客が次々と売店に足を向けてくれるのだという。

ラベルが切符の形になった清酒を手に、「酒が売れる車掌」の寺本顕博さん

フランキー像のミニフィギュアを東京から買いに来る人も

 南阿蘇鉄道のオリジナルグッズは他にもたくさんある。少しでも会社の運転資金にしようと開発してきたからだ。

 寺本さんのオススメは「南阿蘇鉄道トロッコショコラ」だ。少し前までナンバー1の売り上げだった。熊本県内の菓子メーカーとのコラボ商品で、県産牛乳を使っている。高森町のふるさと納税の返礼品としても人気があるのだそうだ。

 実は「トロッコショコラが売れる車掌」も別にいて、この商品のセールストークに関しては寺本さんもかなわない。

 ちなみに、トロッコショコラが1位の座を奪われたのは、このところバカ売れしている商品があるからだ。漫画『ONE PIECE』に登場するキャラクター、フランキー像のミニフィギュアである。

どんどん売れるフランキー像のミニフィギュア(高森駅)

『ONE PIECE』は作者の尾田栄一郎さんが熊本県出身で、県が漫画を使った地震復興プロジェクトを展開している。その一環として、被災各地に登場キャラクターの像を10体設置した。高森駅にはフランキーだ。船大工のフランキーが鉄道の復旧工事に参画するというストーリーになっている。

 10体の像については、それぞれ設置場所でミニフィギュアが販売されていて、フランキー像は高森駅の売店でしか買えない。

「2200円もするのですが、何度も売り切れて入荷待ちになっています」と寺本さんは目を丸くする。私が売店で取材していた1時間ほどの間にも、4人が買った。わざわざ東京から買いに来た人もいた。「ええっ、地震で不通になっていたんですか」と鉄道が被災した事実を知らないようだったが。