熊本地震で被災した第三セクター「南阿蘇鉄道」が2023年7月15日、全線で運行を再開した。2016年4月の発災から7年3カ月。「長かった」と、多くの人が感慨深く語る。発災直後は「もう、運行再開は無理。廃線になると思った」と話す住民が少なからずいたほどの被害だった。どのようにして全線復旧にこぎ着けたのか。

終着の高森駅

「絶景鉄道」が大地震に見舞われる

 地震の揺れの大きさを示す震度は7が最高ランクだ。その震度7の揺れが、実質1日の間隔で連続して起きた例は観測史上、熊本地震だけである。

 最初の揺れは2016年4月14日午後9時26分、熊本県益城(ましき)町で震度7を記録した。益城町を走る日奈久(ひなぐ)断層帯が動いたせいだった。

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 南阿蘇鉄道の鉄道部長、中川竜一さん(52)は当時、総務課長補佐だった。打ち合わせで上京していたが、予定を全てキャンセルして翌朝の飛行機に飛び乗った。

 南阿蘇鉄道は1986年、旧国鉄の赤字路線・高森線を引き継いだ第三セクターだ。

 起点は阿蘇山をぐるり取り巻く外輪山の切れ目にある立野駅。立野は熊本-大分間を結ぶJR豊肥本線の駅でもあり、阿蘇の玄関口のような場所にある。

 南阿蘇鉄道はそこから阿蘇山の南麓へ向かい、外輪山との間にひらけた「南郷谷」をディーゼル車両でトコトコ走る。通過する自治体は実質的に南阿蘇村と高森町だけで、運行区間も立野-高森間の17.7kmしかない。始発から終点まで乗っても30分ほどだ。だが、高さが約60mもの地点に架かる第一白川橋梁や、阿蘇山が眼前に広がる田園を走り、日本で最も美しい風景を走る鉄道の一つだろう。

 この「絶景鉄道」が大地震に見舞われたのだった。

阿蘇山を望んで走る

外輪山からの大規模崩落などで阿蘇大橋が落橋

 前震と呼ばれる4月14日の地震で南阿蘇村と高森町は震度5弱だった。東京から帰った中川さんも合流し、社員総出で路線や施設を確認すると、被害はなかった。「よかった」。皆で胸を撫で下ろして、翌日からの平常運転を決めた。

 それから帰宅して就寝したのも束の間だった。

 4月16日午前1時25分、再び震度7を記録する地震が起きた。前震からわずか28時間後のことである。日奈久断層帯の近くを走る布田川(ふたがわ)断層帯が動いたのだった。再び益城町が震度7を観測し、西原村でも同震度を記録した。

 西原村の隣の南阿蘇村は震度6強、高森町も震度5強と、前震より格段に激しい揺れとなった。