「当時の専務が工事のできる事業者探しから始め、プロポーザルで提案してもらいました。専務は『単に橋梁を架け直すというのではなく、地域のための仕事なんだ』と事業者に説いたようです。現場で作業する人々にも私達の思いが伝わり、地域のために1日も早く完成させようという意気込みで頑張ってもらえました」と中川さんは話す。
こうして、7年越しの復旧工事を終えることができた。
それだけではない。嬉しい知らせも待っていた。
「念願」だったJR豊肥本線への乗り入れが、全線復旧と同時に可能になったのだ。県の仲介に、JRが腰を上げたのが理由だった。
南阿蘇鉄道のダイヤに込められた“思い”
南阿蘇鉄道から熊本方面へ向かう場合、JR豊肥本線に接続する立野駅で乗り換え、さらに電化区間が始まる肥後大津駅で電車に乗り換えなければならなかった。2回の乗り継ぎには、それぞれ待ち時間が生じ、かなりのロスになっていた。
JR豊肥本線への乗り入れが可能になれば、乗り換えは電化区間が始まる肥後大津駅だけで済む。
南阿蘇鉄道のダイヤは1日に最大14往復だが、JR線への直通列車はそのうち2往復とされた。中川さんらはこのダイヤに思いを込めた。
朝夕の1往復ずつという選択もあったが、朝に絞った。
熊本方面へは通学に間に合う便が1本。買い物や通院の時間帯が1本だ。
熊本から南阿蘇方面への1本目は、終点の高森着を午前8時17分にした。県立高森高校への通学用だ。
本当はもう1本前の午前7時53分着が通学用だが、朝寝坊して乗り遅れても何とか間に合うよう考えた。高森高校には2023年度にマンガ学科が新設され、熊本市内からの通学生が大幅に増えた。これに期待する気持ちをダイヤで表した形だ。
南阿蘇方面へのもう1本の直通列車は、午前10時14分高森着だ。博多を午前7時58分発の新幹線で出れば乗り換えられるので、2時間16分しかかからない。
「高森町で午前中から行うイベントに間に合います。誘客の大きな手段になるはずです」と中川さんは意気込む。
復興プロジェクトの一環で『ONE PIECE』とのコラボが決定
将来の話になるが、熊本県が整備を検討してきた熊本空港のアクセス鉄道は、有識者の委員会で2034年度末までに開業し、JR豊肥本線の肥後大津駅から分岐して空港を結ぶと決まった。南阿蘇鉄道が存続されたことで、沿線は空港と結ぶダイヤも設定が可能になる。