さらに、南阿蘇鉄道は全線復旧に合わせて新型車両も導入した。現在所有している普通列車は5両。このうち2両を2022年度に更新し、さらに2両を2023年度に入れ換える。既存の車両は第三セクターになってから37年間も更新していなかったので老朽化が進んでいる。大事に使ってはきたが、JR豊肥本線に乗り入れた時に故障するなどしたら影響が大きい。ただし、南阿蘇鉄道に財源はないので、地元の2町村が購入した。
2022年度に購入した2両は計4億3788万円だ。国と県が3分の1ずつ、南阿蘇村と高森町が6分の1ずつを負担した。地元の2町村は借金で賄ったが、元利返済額の7割が地方交付税で措置される過疎債を使ったので、実質的には3割の負担で済む。もう2両も同じ財政フレームで購入する予定だ。
残る1両は更新しないものの、7月22日から内外装を海賊船風に変える。熊本県は地震からの復興プロジェクトを県出身の漫画家・尾田栄一郎さん作の『ONE PIECE』とコラボする形で進めており、その一環だ。通常の普通列車として高森-立野間で走らせる。
「まさか新駅舎ができるなんて…」
また、高森駅と立野駅の駅舎も高森町と南阿蘇村がそれぞれ新築した。
高森駅は南阿蘇鉄道の本社も入る白い2階建てで、高森町内ではかなり目を引く建物だ。旧駅舎は解体して跡地に地域のコミュニティ・防災拠点を建設する。駅周辺整備も含めて約9億円も掛かる。半額は国の補助を使い、残りは高森町に寄せられたふるさと納税の寄附金を充てるので、実質的に町の財政は痛まない。
立野駅は、地震の被害が大きかった立野地区の交流や観光拠点「立野交流施設」の中に設けられた。事業費は約4億7500万円。財源は借金で、返済額の7割は地方交付税で措置される過疎債を使う。
起点と終点の駅が新築され、普通列車5両のうち4両が新列車になる。残る1両も「ONE PIECE列車」になるという南阿蘇鉄道始まって以来の出来事だ。中川さんは「運行再開は無理かもしれないと考えた時期もあったのに、まさか新駅舎ができ、列車も更新できるなんて考えてもみませんでした」と頬を紅潮させる。
「鉄道を活用して地域をつくっていく」地元住民の強い思い
それだけに「地域の足という面でも、観光という面でも、皆に必要とされ、愛される鉄道であらねば」と肝に銘じる。
「鉄道を残すための復旧ではなく、地域を残すために必要だから鉄道が復旧したのです。南阿蘇地域の住民には、鉄道を活用して地域をつくっていくんだという強い思いがありました」と中川さんは語る。
南阿蘇鉄道が国鉄から第三セクターに転換した時のキャッチフレーズは、「レールが光れば地域が光る」だった。南阿蘇鉄道の第二の再生とでも言える全線復旧。鉄道という手段で地域にどんな「光」が生み出せるか。これからが本番だ。