1ページ目から読む
2/5ページ目

「スタジオジブリでさえ……」

 しかし映画興行に限れば、そんな人気は長らく日本アニメには無縁だった。各国のアニメイベントに何十万人のファンが押し寄せても、アニメ映画の上映は数館から数十館で、観客はトータルで数万人というケースがほとんどだった。世界の映画興行は米国の巨大エンタテイメントの支配力が強く、広い大衆性が求められ、映像ビジネスでもとりわけ海外進出が難しい分野なのである。若者の間で人気が高い日本アニメでも、「所詮はニッチ」と相手にもされず、そもそも上映機会さえ少なかった。

 それは巨匠・宮崎駿を擁するスタジオジブリですら同じだ。2003年のアカデミー賞長編アニメーション映画賞に輝いた『千と千尋の神隠し』は当初の上映劇場数は百数十スクリーン、アカデミー賞受賞後も700スクリーン余りに過ぎない。ディズニーやドリームワークスのアニメーション映画が3000スクリーンから4000スクリーンで上映されるのとは雲泥の差だ。『千と千尋の神隠し』は全米での興行収入も1000万ドルほどで、ハリウッドの大作アニメーションが軽く1億ドルを超えるのとは対照的だった。

『千と千尋の神隠し』公式サイトより

 北米で日本アニメを多く手がける配給会社GKIDSの社長のデビッド・ジェステッド氏は、今年3月に開催された新潟国際アニメーション映画祭のトークで「スタジオジブリでさえ、北米ではアートハウス(良質で小規模公開の作品)とみなされます」と、そのマーケティングの難しさを語っていた。人気はあっても、映画業界ではメジャーとみなされない。それが日本のアニメだった。『鬼滅の刃』はそれを打ち破った。

ADVERTISEMENT

『鬼滅の刃』の成功は、突然だったわけではない。実はここ数年、『僕のヒーローアカデミア』、『ドラゴンボールZ』といった日本アニメの劇場シリーズが、北米興行ランキングの上位にしばしば登場するようになっていた。少ないスクリーン数での驚異的な動員は、米国の映画メディアで「サプライズ」とたびたび報じられたが、何度も続けばそれはサプライズでない。