文春オンライン

連載テレビ健康診断

山上被告は無実だと言いたいのか? 安倍元首相銃撃から1年、民放テレビ番組は事件をエンタメ化している――青木るえか「テレビ健康診断」

『そこまで言って委員会NP』(読売テレビ)

2023/07/22
note

 奈良の西大寺在住の友人が、安倍元首相が暗殺される10日前、同じ大和西大寺駅の、反対側の駅前に遊説に来た時にちょうど居合わせて、握手までしてもらったそうなのだが、「ロータリーやから安倍さんの前に普通に自家用車とかバンバン通るし停まっとるしこんなん危険やん! て私はゆーとった!」と事件直後に会ったら熱弁していた。友人は自他共に認める「粗忽で慌て者で間が悪い」人だが、そんな彼女が気になって警鐘を乱打するぐらい、警備態勢はスカスカだったか。

 事件から1年、特集番組がいくつもあった。現場の警備は「スカスカだった」、山上被告が「手製の銃」を作ったら「うまくできてしまった」、銃を撃ってはずれたが「まさか銃だとは誰も思わなかった」、2発目を撃ったら「当たってしまった」、それが「致命傷になる場所だった」。いくつもの大小の穴を通り抜けた銃弾が安倍さんを殺した。

 現実世界に穴は無数にあいている。穴を埋める作業より、銃撃に至った原因を探って掘りさげて、事件の発生を抑えるというのが現実的だろう。

ADVERTISEMENT

安倍晋三元首相が銃撃された現場付近を調べる警察官ら ©時事通信社

『NHKスペシャル 安倍元首相銃撃から1年 事件の深層と波紋』は「統一教会問題」のみ追及していた。深層も波紋も「統一教会」に起因する。「統一教会」が銃弾を産みだした。「統一教会」と、その取扱いをこれからどうしていくのかを考えることが、こんな悲惨な事件が再び起きないために必要だ。民放の特集番組は「あの時、山上被告は」「今、山上被告は」方向が多くて、気持ちはわかるがそれを追及したってあまり意味はない。山上被告を消費しておしまいである。エンタメである。

 そんな中で『そこまで言って委員会NP』が、「昭和歌謡で振り返る、昭和の凶悪事件、深層究明スペシャル!」と銘打って帝銀事件や永山則夫事件をやる中でなぜか令和の安倍元首相銃撃事件を取り上げ、「弾道に謎」とか言っているのを見た。え、安倍さんを殺したのは山上被告ではなく別にいると。凄腕のスナイパーがいたと。そしてそれが隠されていると。

 その前日のフジテレビ『イット! 緊急特報徹底検証 安倍元首相銃撃 独自証言 7・8あの日何があったのか』でも極秘映像とやらを出してきて「第2のスナイパーがいた」とかいう話をしていたが、そんなに山上被告は無実だと言いたいのか。安倍さんも浮かばれないだろうそれじゃ。

 まあ『イット!』は、そのあと「その可能性はない」って検証してたし、『そこまで~』は元警察官・小川泰平に「それならその資料持って警察行ってみろ」って怒られて終わったからいいようなものだが。とにかく民放テレビは安倍さんと山上被告でどれだけ楽しもうとしているのか。

INFORMATION

『そこまで言って委員会NP』
読売テレビ 日 13:30~
https://www.ytv.co.jp/iinkai/

山上被告は無実だと言いたいのか? 安倍元首相銃撃から1年、民放テレビ番組は事件をエンタメ化している――青木るえか「テレビ健康診断」

X(旧Twitter)をフォローして最新記事をいち早く読もう

週刊文春をフォロー