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《直木賞受賞》「現代にも『耐える美学』がある気がします」作家・永井紗耶子が「あだ討ちの物語」を書いたわけ

直木賞受賞・永井紗耶子さんインタビュー

2023/07/23
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 7月19日、第169回直木三十五賞の選考会が開催された。受賞作は、永井紗耶子さんの『木挽町のあだ討ち』(新潮社)、垣根涼介さんの『極楽征夷大将軍』(文藝春秋)に決定。

 受賞発表の翌日、永井紗耶子さんに話を聞いた。

©文藝春秋

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――山本周五郎賞受賞に続き、『木挽町のあだ討ち』での直木三十五賞受賞おめでとうございます。

永井 ありがたいです。ここまで来たのかと、自分でもちょっとびっくりしています。

――発表のあった昨日の夜は、あまり寝れなかったそうですが。

永井 たくさんの方にお会いして緊張もしましたし、たぶんアドレナリンがぶわっと出ていたんだと思います。

 選考委員の名だたる先生方にもご挨拶したんですが、帰宅した後で「私、今日、神々に囲まれている時間があったんだ」と改めて感じていました。

 宮部さんが「前に候補になった『女人入眼』も好きだったの。今回のもよかった」と言ってくださって、もう成仏しそうな勢いです(笑)。

受賞発表の記者会見にて、(左から)直木賞受賞者の永井紗耶子さん、垣根涼介さん。芥川賞受賞者の市川沙央さん ©文藝春秋

「そんなに歌舞伎が好きなら書いちゃいなよ」

――まだ成仏しないでください(笑)。受賞作は江戸時代の仇討ちと、歌舞伎が題材となっていますね。

 ある冬、木挽町の芝居小屋のそばで少年・菊之助が父親を殺めた下男に仇討ちする。2年後、ひとりの若侍が芝居小屋を訪れ、木戸芸者や衣装係、戯作者などの裏方たちに仇討ちの顛末を聞いてまわる。裏方たち一人一人の目撃談と、彼らの来し方が語られるなかで意外な真実が見えてくる。

 編集者から「永井さんは歌舞伎がお好きなようだから、そのことを書いてみませんか」と提案されたことが執筆のきっかけだそうですね。

永井 私が江戸時代の話を書く時にちょいちょい歌舞伎の話を入れるので、「そんなに好きなら書いちゃいなよ」とアドバイスがあり、「じゃあ、ちょっとやってみたいことがあるんです」と、仇討ちのことを絡めて書きたいと伝えました。

 歌舞伎において仇討ちは人気演目なので、それを私なりに料理するとしたらどのようにできるのかという、古典に対するチャレンジみたいな気持ちがおこがましくもありました。

©文藝春秋(撮影:深野未季)

――この作品は歴史や歌舞伎、演劇といった永井さんのお好きなものと、ライター時代の数々のインタビューなどの経験が詰まっていると感じます。まず歴史に関しては、物心ついた時からもう好きだった、と。

永井 そうなんです。それはもう本当に癖(へき)みたいなもので。はまった年齢が早すぎて「なぜ時代小説を好きになったのですか」と訊かれても自分でも分からないんです。

――小学校低学年の頃に日本の歴史の漫画を読んで邪馬台国にはまり、講談社の火の鳥伝記文庫を読んで戦国や平安にはまり……。

永井 あらゆる時代にはまってきて、今は大正ロマンも好きです(笑)。