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新聞連載「きらん風月」が完結

――産経新聞に連載されていた「きらん風月」がこの20日に完結したところですね。実在した栗杖亭鬼卵(りつじょうていきらん)という戯作者の話で、今年の初めに「作家の読書道」でお話をうかがった時には「今、大阪弁と格闘しています」とおっしゃっていましたよね。

永井 ずっと大阪弁と格闘していました(笑)。新聞連載なので原稿を落とせないという緊迫感から、とにかく情報を多めに集めておこうとしたら、本当にすごい量の情報を集めてしまいました。思った以上に広がる話でした。

 鬼卵が松平定信と会ったという逸話が史料の中にあるんです。「この二人が会って会話が噛み合うのか?」と思って調べていったら、予想以上にいろんなものが見えてきました。

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 たとえば当時、武士という地位を捨てても自由になることを選ぶ人がいたらしいと分かったり、そういう生き方を選びたくなる何かが武家の社会にあったんだという確証を得たりして。これから、これを単行本にまとめるために改稿を頑張らないといけないところです。

――その前に、当分は直木賞受賞記念エッセイなど、受賞関連のお仕事に追われるのでは……。

永井 私、受賞したらどうなるかというシミュレーションをしていなかったんです。あまり考えると取り越し苦労になるので、それよりも、選ばれなかった時に心を立て直す方法をいろいろ考えて、芝居を観に行く予定や、おいしいものを食べに行く予定をいっぱい立ててしまったんです。それが今、自分の首を絞めることに(笑)。

 この週末も歌舞伎の『刀剣乱舞』を観に行く予定です。私は尾上松也さんが新春浅草歌舞伎の座長をされた時に取材に行ったりしていて、松也さんがまた新しいチャレンジをされるんだなと楽しみなんです。友達に「受賞したら行けないかもしれないね」と言われましたが、「いやそれは行くよ」と(笑)。

©文藝春秋(撮影:深野未季)

「やってみたいことを、やり続けようと思っています」

――その後の執筆や刊行のご予定は。

永井 「オール讀物」での連載「秘仏の扉」がラスト1話となっています。他に「小説新潮」さん、双葉社さんで始めるものがあります。双葉社さんで書くものはだいぶ前からやりたいと思っていた、完全なエンターテインメントです。時代背景は明治なので、また新しく調べなければならないことが山積です。

 やっぱり私は調べるのが好きなんでしょうね。「手元にある資料で書けるものにすればいいのに」と思うのに、やってみたくなる。でも、やってみたいと思うことをやらなくなったら、何のために書いているのか分からなくなる。やってみたいことを、やり続けようと思っています。