「いや、メン地下やってる男としか付き合ったことなくて。中学でも高校でも一般の彼氏がいたことがない。女の扱いがうまくないと好きになれない。そこにきて、ホストやメン地下は女の扱いがうまいから。なんか私がめっちゃ性格がひん曲がってるから。すぐ拗ねたりとかするから。それをなだめてくれる人じゃないとダメなんだと思う。普通の男の子って拗ねたりしたらすぐ戸惑うじゃないですか」
――そうだね。もういいよってなるよね。
「意地っぱりなんで、もういいよって言われたら私から切ると思う。でも、ホストやメン地下の子はなだめてくれるから」
――まあ、カネだとしても。
「うん、まあそうね」
「というより暇つぶしかな。暇なんで」
――じゃあ、フツーに彼氏を作るよりメン地下やホストのほうが熱中できるわけだ。
「うん。推し活してる自分が好きなんだよね。彼氏にはお金を使えないじゃないですかぁ。お金払ってワーキャーしてるのが楽しい。お金使いたい。ホストがどういうものかってのはちゃんと理解している。メン地下のファンだったから、余計にね。でも、別に仕事でもここまでしてくれるんだったら幸せかな、みたいな」
――それで幸せなんだ。
「いや、幸せとまでは言えないかも」
――自分でもわからないんだ。幸せか、どうか。
「というより暇つぶしかな。暇なんで」
かえりみれば、恵美奈は自分の暴走を止めるためのきっかけを模索し続けているようだ。それは、「幸せとまでは言えないかも」という恵美奈の言葉を、できればカネなしで自分のすべてを受け止めてほしいのではと僕は理解したからだ。
なのに担当は、1回150万円もの売り掛けをさせ、それを恵美奈は売春の稼ぎで返済するなか――むろん、毎日会うなど恋人同然に振る舞っているのだとしても――恵美奈に、最後に「暇つぶし」と言わせたのは皮肉というしかない。
再び大久保病院側に戻った恵美奈は、スーツ姿のサラリーマン風情に買われた。その間わずか10分弱だった。