21歳の女性が、なぜ歌舞伎町で街娼として働くようになったのか……そこには売上のために客に高額の借金を背負わせるホストの魔の手があった。

 2022年夏ごろから増え始めた10代後半から20代前半の街娼たちの実情を、ノンフィクションライターの高木瑞穂氏の新刊『ルポ 新宿歌舞伎町 路上売春』より一部抜粋してお届けする。(全2回の1回目/後編を読む)

歌舞伎町で街娼として働く梨花(仮名、21歳)さん。彼女が現在に至るまでの過去を追った(写真:筆者提供)

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客をデリヘルで働かせるホストたち

 ホストクラブには、「売り掛け」と呼ばれる制度がある。シャンパンなど注文して高額になった飲食の代金を、返済期日を取り決めていったんは猶予してもらい、あとから支払う方法だ。銀座の高級クラブなどでは昔から同様の制度が優良客への“サービス”としてあり、それは企業が接待に使った毎月の支払いをまとめて後払いするためのものだったが、ホストクラブでは個人の女性客に背負わせる形に変化した。

 この売り掛けにホストで遊ぶ女性たちが期待したのは、いまは手持ちのカネがないが1ヶ月後には入金の見込みがあるといったように、返済能力があるからこそ、この制度を利用することだったはずだ。だが、現実に担当と客との間で横行しているのは「半強制的な借金」。

 これでは飲食店の“サービス”ではなく、現段階では返済能力がないにもかかわらず、それでも貸し付ける闇金のやり口だ。事実、ホストの口車にのせられ意図せず売り掛けしてしまい、やむを得ず学生やOLから風俗業界へと転じる女性も少なくない。

 確かに売り掛けは、返済期日までに女性がカネを用意できなかったり女性に飛ばれたりした場合、ホスト個人にそっくりそのまま店への借金としてふりかかってしまう諸刃なものではある。しかし闇金業者がそうであるように、ある程度の容姿スペックの女性であればカネを作ってくることなどわけないとホストは考えている。斡旋とまでは言えないかもしれないが、地方のデリヘルなどに少しの間「出稼ぎ」に行くように仕向け、そこでみっちり働き大金を持ってこさせたりするのが、売り掛け回収の常套手段だ。

 こうした知識があったため、僕はホストに対してあまり良いイメージがない。しかし現状は、ホストにハマって多額の借金を作り、身を粉にして働く女性たちを「ホス狂い」と括り、まつりあげている。

 ここで、改めて「ホス狂い」について説明したい。

「ホス狂い」とは、文字通りホストに狂ってしまった――ハマってしまった女性のことを指す。“狂う”=常軌を逸するまでに、となるわけで、かわいそうな存在を連想しがちだが――いや、実際の状況はどう見積もっても不幸であるとしても――いまや悲壮感などいっさい見せず「私はホス狂いである」と自称して、ホス狂いになった経緯や担当に使った金額の誇示やその矜持、愛情、憎しみ、不満、不安などの内情をSNSなどでひけらかし、共感を得たり優越感に浸るなどして承認欲求を満たすのがトレンドだ。

 その「ホス狂い」の世界を描いた漫画に、『明日、私は誰かのカノジョ』(をのひなお・小学館)がある。累計500万部超のベストセラーになりテレビドラマ化までされるなど、ホス狂いだけではなく一般女性も巻き込み大きなムーブメントになっている。

『明日、私は誰かのカノジョ』(画像:サイコミより)

 つまりいま、幸か不幸かホストという職業がマスコミでもてはやされている。彼女たちは自ら望んでホストに大金を使っている。それで幸せ。そうホス狂いを評した意見があるにしても、売り掛けの問題をただすどころか目をつむるようなふるまいは、はなはだ疑問だ。