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「今の日本チームはけっこう知ってるよ」

「グループリーグの次戦で当たる日本の中で、名前を知っている選手はいる?」

 そう尋ねたが、正直なところ色よい答えを期待してはいなかった。何しろボンマティは、女子サッカー界では国際級のスター選手だ。

 一方のなでしこは海外組が多くなったとはいえ、世界に名を轟かせるクラスの選手はいない。だからおそらく、「さあ……いい選手が多いチームだってことは知ってるけど」ぐらいの適当な社交辞令でごまかされるのだろうと想像していた。

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 だが返ってきたのは、意外な答えだった。

「アンダー世代の女子W杯で何度も日本と当たったことがあるから、今のチームならけっこう知ってますよ。ミヤザワ、ウエキ、ナガノ、(南)モエカ、それからアメリカでプレーしてるピンクの髪の……」

「遠藤?」

「そう、ジュン・エンドウ!」

 とまあ、にこにこしながら日本選手の名前をすらすら出してくるのだ。
 そうだ、よく考えてみれば彼女がスペイン代表として出場した2014年の女子U-17W杯では、グループリーグと決勝の2度にわたって日本と対戦し、2度とも日本が勝利している。

 さらに2018年の女子U-20W杯は、グループリーグではスペインが勝ったものの、決勝でやはり日本に返り討ちに遭ったのだ。そんな過去の経験から、世界的な選手になった今でも日本に対してリスペクトと興味を持っているのかもしれない。

 彼女には、いつもほころぶような笑みを湛えている印象がある。試合後にピッチ上で行われるインタビューでも、テレビのスポーツドキュメンタリーでも、試合中でさえも笑っている。

2011年に女子W杯で優勝したチームの中心だった澤穂希(中央) ©文藝春秋

「そうね、そうかもしれない」

「あとハセガワは今、(マンチェスター)シティでプレーしてますよね」

 なんと彼女の方から長谷川の名前が挙がったではないか。

「長谷川はあなたにとても似ているように思うんだけど、どうかな? 見た目も、プレースタイルも」

 するとやはりにっこりして、

「そうね、そうかもしれない」

長谷川唯とボンマティの中盤対決に注目 ©AFLO

 きょうのスペイン戦は、長谷川が自分の分身のようなボンマティをいかに抑え、逆に攻撃面で決定的な仕事ができるかが、勝敗に大きく影響しそうだ。

 日本―スペイン戦の最大の見どころはずばり、鏡写しのような2人の対決にあると僕は思う。