この松本の「スムーズな川の流れ」に乗り、リスペクトを続け、どれだけ人気が出ても彼を押しのけてまで前に出ようとしない稲葉浩志もこれまたすごい。「稲葉さんは松本さんのTO(トップオタ)」という情報を何度か見たことがあるが、まさにお互いが最高のファンであるのだろう。
2人でいれば自信が湧いてくる
もちろん、いきなり順調とはいかなかったようで、松本があるラジオで、嬉しそうに「最初は『もっとしっかりしてくれよ~』と思っていたが、どんどん作詞もうまくなり、刺激を受けた」と話していたのを聞いたことがある。おっとりした稲葉を兄のように見つめながら、その成長を楽しみ、自身もその才能を目いっぱい吸い込んでいる感が出ていた。
1992年のアルバム「RUN」リリース時、松本はレコーディング関係者にこんなことを話していたという。
「自分がいいメロディーをつければ、そこに稲葉が自然と合った詞を当てはめてくれる。もう、僕たち2人がいれば、どんな世界の、どんな分野の曲でも書けちゃうみたいな自信が湧いてくるんですよ」(『B'z物語』著:吹上流一郎、コアハウス)
デビュー4年目のこの発言が、それから31年経った今もなお、2人の姿や曲から伝わってくるのだからすごい。
ラブソングの奥に見えるパートナーシップ
B'zから聴こえてくるのは、ひたすら「大切な君」のご機嫌に一喜一憂しながら、その笑顔を守り、手をつないで果てしない世界に行こうともがく、奥手の素直な青年である。
稲葉が綴るやさしく、愛する側の目線で描かれた言葉が、松本のソウルフルなサウンドに運ばれ、多くの人の心に沁み入る。私は昔「さよならなんかは言わせない」という曲で「弱音を吐くなら さあ聞いてやる」という歌詞があり、ああ、「強くなれ」「ぶちかませ」ではないのだ、なんとやさしいロックなんだろう! と驚いたことがある。
決して壮大な世界観ではなく、大切な人と手をつなぎ、その笑顔を守りたい、ということが多く歌われる。「ALONE(ひとり)」であることも、その大切な誰かと巡り合うため。彼らのラブソングには、お互いリスペクトできる、奇跡のパートナーシップというバックボーンを感じる。ビジネスだけでは語り切れない2人の「奥行」が、名曲を生んでいく。