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 変わらずNSTは50のあたりをうろうろし続け、痛みは変わらず、私も赤ちゃんも何も変わったところはない。わけがわからないまま私は再びコロナ感染者用の車椅子に乗せられて、ゴロゴロと転がされていった。スマホだけを握りしめて。

 分娩室はやたらだだっ広い、バレーボールコートくらいあるガランとした部屋だった。中央にポツンと舞台装置のように分娩台があった。聞けばコロナのせいで立ち合いがなくなり、夫など付き添いの人が待機するためのソファや椅子が撤去されたため、こんなに寒々しい空間になっているとのことだった。あっという間に私は分娩台の上に乗せられ、産婦人科の先生がやってきた。

「今から陣痛促進剤を入れます。ただし、あなたはコロナ陽性者なので、医療スタッフの感染を防ぐために、2時間経ったら帝王切開に切り替えます」

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 私は分娩台の上から転げ落ちそうになった。

「先生、あの、朝、助産師さんが72時間は様子見って言ったんですが」

 先生は首を傾げ、「うーん、でも、破水するとお腹の中の赤ちゃんと外の世界がつーつーやってん、赤ちゃんも感染のリスクが上がるから、早めに出したほうがええよ」と言った。

 つーつーって、何?!

 続けて先生はチラッと時計を見ると、

「ほんで、あと2時間したら17時になってスタッフが帰っちゃうからさ。できるだけたくさん人がいるうちに出した方がいいから、2時間後には帝王切開になります」

 これかーーー!!

 私は心の中で絶叫した。Sちゃんがその話をした時も、私はせんべいをボリボリ食べながら他人事のように聞いていたのだ。

「え、けど、先生、私の子宮口、3センチから開いてないんですけど、あと2時間で生まれるなんてことあるんですか?」

 私は聞いた。「うーん」先生は首を傾げた。

「けど、もう、産科の部長も小児科のセンセも、全員一致で『今がいい』言うてはるからさ」

 答えになっていなかった。だったら、その人たち全員ここに連れてきて欲しい。

「先生、あの、できればもう少しだけでも粘りたいんですけど」

 私は恐る恐る言った。その途端、先生はカッと般若の顔になると、「オノさんっ! お腹の赤ちゃんを危険にさらしてもワガママ言いたいのっ?」と言った。

 私が呆然としていると、先生はイラついたように、「あと5分で決めて。時間ないから」と言い、分娩室から出ていってしまった。