テレビのニュースを見る限り、ジャニーズ事務所の創立者のジャニー喜多川氏による少年への性加害問題はいまや通常の伝えるべきニュースになりつつある。10代半ば頃に被害にあった元タレントたちが顔を出して告発する流れが決定的になり、80歳近い男性まで名乗りを上げて被害を告白している現状。こども時代の性暴力の記憶に今も苦しめられている実態が明らかになったことで、以前と比べればテレビ各局や大手スポンサーもジャニーズ事務所への忖度や遠慮などをもはや気にしなくなってきたように見える。
それどころかマスメディアによる議題設定を試み、この問題こそ多くの国民が関心を持つべき重大な問題だとして、政府の政策などと結びつけて報道するテレビ番組が出始めた。
日テレ「news every.」の“異変”
その急先鋒は日本テレビだ。筆者が“異変”を確認したのは7月26日(水)の日本テレビの夕方のニュース番組「news every.」の16時台だった。
この日、小倉将信こども政策担当相も出席する政府の関係府省会議が開かれ、(男性に特化した)こどもや若者の性被害防止に向けた緊急対策パッケージを打ち出したことを伝えるニュースを放送した。
この中で「news every.」はジャニー喜多川氏によって性被害を受けたと訴えるジャニーズ事務所の元所属タレントたちを登場させ、政府の緊急対策をジャニーズの性加害問題と関連づけて報道した。
各ニュース項目の冒頭、キャスターらがスタジオ部分でそのニュースのあらましを15秒程度で伝える部分を「リード」と呼ぶ。いわばニュースの概要だ。
「news every.」のリードのコメントは以下の文章だった。
〈ジャニーズ事務所の前社長による性加害問題に関連し、政府はこどもなどへの性被害防止に向けた取り組みを打ち出しました〉
リードを読み上げる際に、ニュース項目を簡潔に理解させるテロップ(字幕)を出すが、最初は「性被害防止へ 新たな取り組み」という文字だった。
「ジャニーズ事務所」を強調した仕掛け
だが、スタジオからVTR映像に切り替わったとたんテロップの文字も変化する。
「性被害防止に『緊急対策』声を上げやすい環境作りとは 国連ジャニーズ問題で聞き取り」
ニュース内容そのものは「(政府の)新たな取り組み」を伝えるものなのに、そこに「ジャニーズ事務所」を強調して視聴者がニュースに注目するような仕掛けを作っていた。
スタジオのリード部分からVTR部分に切り替わると、「news every.」はジャニーズ事務所の元所属タレントたち4人が並んでいる映像を流した。前夜に国連人権理事会の専門家による聞き取り調査を受けた後で記者の前でぶらさがり(立ったままの記者会見)を顔出しで応じる姿と音声を放送したのだ。