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ぼくと子供たちを繫いでくれた野球の力

 最後に次男の打っている姿を見たのは2016年の、逮捕される少し前のことで、まだ小学校5年生くらいのときでした。

 あれ以来、久しぶりにバッティングを見て、ひと目で、ああ苦労しているんだなとわかりました。今まで一番自信があったバッティングに関して迷ってしまっているようでした。

 変化球をどう打つとか、そういうことよりも、これはまず自信を取り戻さなくてはならないと感じました。

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 そこで最初にぼくが次男に言ったのは「三振を怖れずにとにかくバットを思い切り振ろう」ということでした。

 とにかく遠くに飛ばすこと、速い球に対してしっかりとバットを振れるようになること、そうするためにはどうすればいいのか考えてごらんと、そういうことをまず伝えたんです。

選抜高校野球でヒットを放つ、次男の清原勝児氏 ©時事通信社

 自分にとっても久しぶりに原点を思い出したような気持ちでした。

 自分は小さいころから「もっと遠くへ飛ばしたい」とそればかり考えてきて、それを今、悩んでいる息子に伝えている。ぼくと子供たちを繫いでくれた野球の力を感じずにはいられませんでした。

 長男はその間も明るく振るまって場の雰囲気を和(なご)ませてくれていました。

「俺も打ちたい」とバットを振って笑っていました。

 今はアメリカンフットボールをやっていて、優秀選手として表彰もされたそうです。もう自分より背も大きいですし、筋肉もついてすごい体をしています。聞いたらベンチプレスは100kg以上を上げるそうです。

 ぼくなんかよりよっぽど心も体も大きくなろうとしている長男。ぼくの言うことに耳を傾(かたむ)けて必死にバットを振っている次男。なんだか夢の中にいるようでした。

選抜高校野球で次男がヒットを放つ姿を見て喜ぶ清原氏 ©時事通信社

 長男は生まれたとき、ぼくの名前をつけてくれたお寺の住職さんに頼んでいくつか名前の候補を出してもらって、その中から命名したんです。

 次男には強そうな名前をつけようと思っていました。

 生まれたときはあんなに小さかったふたりが、ここまで大きくなったのかと。そういう感慨に浸(ひた)っていました。

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