主人公・万太郎(神木隆之介)がその道を極める「植物学」を通じて人生の光と影を描き、朝のひとときに豊かな物語を届けてくれる『らんまん』(NHK総合)が佳境を迎えている。

 先週放送された18週「ヒメスミレ」では、植物学教室教授の田邊(要潤)の厳令で、万太郎の研究の拠り所であった東京大学への出入りを禁じられてしまった。加えて、万太郎の実家である高知・佐川の造り酒屋「峰屋」が倒産。さらには、最愛の娘・園子が「麻疹(はしか)」で夭逝してしまう。

万太郎、寿恵子、愛娘の園子 ©NHK

 万太郎にとって、そして物語にとっても、今がまさに「どん底」。しかし、自然界の理(ことわり)に添うように、人間も「一度朽ちても新しく生まれ変われる」という真理をくりかえし描いてきた本作のこと。これから万太郎と寿恵子(浜辺美波)がどう「再生」していくのかが、真の見どころと言えるだろう。

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『らんまん』を彩る、演出の妙

『らんまん』という物語が醸し出す「豊かさ」の要因は何かと考えたときに、企画の良さ、脚本の精緻さ、演出の丁寧さ、演者による最良のパフォーマンス、これらすべてがパズルのピースのように、かっちりと“ハマって”いると感じる。そんな本作の、“縁の下の力持ち”である「演出」には、どんな苦労と創意工夫があるのだろうか。チーフ演出の渡邊良雄氏に話を訊いた。

 渡邊氏は、『ゲゲゲの女房』(2010年前期)、『まんぷく』(2018年後期)に次いで、チーフ演出として朝ドラに携わるのは今作『らんまん』で3作目となる。

 各週で物言わぬ“語り部”の役割を担う植物を再現し、本物と見分けがつかないほど精密に作られたレプリカ。柱一本、筆一本にまで目が配られ、人物の生き方や暮らしぶりがリアルに伝わってくる大道具や小道具。湯気と香りがテレビの前のこちら側まで迎えにきそうな、シズル感あふれる“消え物”(料理)。人物の心情に寄り添う風、光、雨などの臨場感。

『らんまん』の世界を彩る、こうしたきめ細やかな演出のために、いちばん大切にしていることは何かと尋ねると、渡邊氏は語った。