いつの時代でも、アウトドアで行うスポーツやレジャーは、老若男女を問わず多くの人たちに親しまれている。しかし、その一方で、野山での遭難事故や、川・海での水難事故が後を絶たない。そのような不幸な事故を減らすためには、どうすればいいのだろうか?

 ここでは、実際に起きた事故を取り上げ、自然の中にはどんな危険が存在しているのか、どうすれば事故を防げるのか解説した羽根田治氏の著書『これで死ぬ アウトドアに行く前に知っておきたい危険の事例集』(山と溪谷社)から一部を抜粋。実際に山で起きた事故の具体的な事例と、事故を未然に防ぐための知識や応急処置方法などを紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)

写真はイメージです ©AFLO

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すべって落ちて死ぬケース

 2泊3日の予定で、槍・穂高連峰に入山した60代女性の行方がわからなくなりました。8月下旬、女性は単独で上高地から入山し、その日は涸沢の山小屋に宿泊。翌日は北穂高岳を往復するため小屋を出発しましたが、夕方になっても戻らなかったため、山小屋が家族に連絡し、家族が警察へ一報を入れました。警察は翌朝から捜索を開始し、昼前、北穂高岳南稜の標高約2890メートルの斜面で、倒れている女性登山者を発見し、死亡を確認しました。

 現場の状況から、女性は登山道から50メートルほど滑落したものとみられています。悪天候のため、遺体を収容できたのは発見から4日後のことで、遺体は行方不明の女性であることが確認されました。

 また、5月中旬の某日未明、70代の男性が山から帰宅しないと、警察に届出がありました。男性は栃木県の日光・鹿沼市境にある地蔵岳・夕日岳にひとりで登ると、家族に伝えて家を出たそうです。家族が警察に届出をしたのち、夜中に男性から「道に迷ってどこにいるかわからない。ケガはしていない」と電話がありましたが、その後、連絡がとれなくなりました。

 警察や消防などはその日から捜索を開始し、2日目に地蔵岳の登山口近くで男性のザック、ストック、帽子などを発見。翌日、登山道から約250メートル離れた急斜面で、木の幹の根元に引っ掛かっている男性を発見し、死亡を確認しました。現場の約30メートル上には滑落したような跡がありました。 

・死なないためには?

 転滑落事故の大半は、油断や不注意などが引き金となる。 とくに疲れていると注意力が散漫になりやすい。転滑落の危険がある岩稜帯や岩場、急斜面などはもちろんだが、安全そうに見える場所でも事故は起きているので、気を緩めずに行動したい。また、事故多発地帯ではヘルメットを着用しよう。