「もう一回、語ってみない?」ある芸人に背中を押され…
“10年の封印”を解いたのは、聞き手のリテラシーが変わったからです。怪談エンタメを配信している島田秀平さんに「もう一回、語ってみない?」と声をかけていただいて。及び腰だったんですけど「この10年で客は変わったから」と言われておそるおそる……。語ってみたら本当にその通りで、嘘か本当かよりも、話の面白さを純粋に求めてもらえて。こんなにポジティブなリアクションが集まるんだ!と衝撃を受けました。
やっぱり怪談って、語り手と聴き手が一緒になって作り上げるものですからね。疑われるのも辛いですけど、わざと大げさな反応をされるのも「いやいやいや」って。自分の体験談ゆえに、まがい物を混ぜたくないんです。でも聴き手が1回でも「やらせ」をしちゃうと、全部が嘘になっちゃう。エンタメとしてやるなら、全員が真剣に向き合って楽しんで、その楽しさを分け合って持ち帰ることが大事だと思っています。
私の場合、実体験なのでネタはそうそう増えないんですよ。「初出し」を求める声も強いですけど、稲川淳二さんの『生き人形』のように幾度も語られて磨かれた怪談って、何回聴いてもぞくぞくするじゃないですか。鉄板の恐怖を味わってもらいたくて始めたのが、主催イベントの『TEPPAN HORROR NIGHT!!!』です。私の好きな怪談師さんに、十八番の怪談を思う存分語り尽くしてもらうという夢の企画(笑)。聴くと危険な出来事が起きる怪談でも、たくさんの人に繰り返し語って「全員で握る」ことで、その“障り”を薄められるという憑き物落としの意味もあるんです。