イギリスにある世界最大の航空業界格付け会社・スカイトラックス社が公開している格付けランキングにおいて、2016年から8年連続で「世界一清潔な空港」に選ばれている羽田空港。その羽田空港の清潔さを支える清掃のプロフェッショナルとして、2015年、2019年にNHK「プロフェッショナル 仕事の流儀」で取り上げられたのが、“スゴ腕”の清掃人・新津春子さんだ。
ここでは、清掃のプロとして活躍する新津さんが、自身の生き様や仕事との向き合い方を綴った著書『世界一清潔な空港の清掃』(朝日文庫)より一部を抜粋。清掃員を「職人」と称する彼女の仕事の取り組み方を紹介する。(全2回の1回目/2回目に続く)
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私たちも人間なんですよ。
羽田空港ターミナルの清掃員として働き始めてすぐのことです。
お客様が私の目の前にゴミをぽいっと投げ捨てて行きました。すぐそばにゴミ箱があるにもかかわらず。「お前が拾って当然だ」という態度です。そう考えてすらいなかったかもしれません。
清掃員はまるで召し使いか透明人間。そんなふうに扱う人は少なくありませんが、そのような仕打ちをされても、清掃員は何も言い返すことはできません。憤りの感情は飲み込んで、黙ってゴミを拾い、清掃を続けます。
家族で日本へ移ってきて、日本語も満足に話せない高校生の私に見つけることができた仕事は、清掃のアルバイトだけでした。私が学費や生活費を稼ぐことができたのは清掃の仕事があったおかげです。私は自分でこの仕事を選びました。
清掃の技術をひとつひとつ身につけていって、羽田空港で働き始めたのは24歳のときです。今の第1ターミナルができて少し経ったころです。それから1998年に国際線ターミナル(第3ターミナル)ができて、2004年には第2ターミナルができました。最近では、2014年3月に国際線ターミナルがリニューアルされましたね。利用者がどんどん増えて、空港はどんどん大きくなっていきました。
今も若い人によく言うのですが、私は、空港に一歩入ったら、自分の家だと思って仕事をします。そして、誰でも自分の家にきたお客様にそうするように、今日のお客様はどうかな、この人は何か困っているのかな、何を聞こうとしたのかなって、ひとりひとりのお客様をちゃんと見るようにしています。
だから、清掃員を透明人間だと思っている人に出会うと、すごく悲しくなってしまうんです。私たちも人間なんですよ、って。