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ひとつひとつ、全部意味があるんですよ。

 2015年8月に、講師として、ハウスクリーニング技能検定の講習に参加しました。2012年から毎年夏に行われているもので、全国から受講生が集まり、3日間かけて学科と実技の受検対策をします。

 受検資格は「3年以上の実務経験があること」なので、基本的に受講生はみんな清掃のプロ。全国各地のビルメンテナンスやハウスクリーニングの会社に所属して働いています。その上で、技能士の資格をとって、さらにプロとして腕を上げようという人たちです。

 検定は7科目の実技試験があるのですが、そのひとつをちょっと紹介しましょうか。

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 たとえば、「ステンレスの油汚れ落とし」という課題。ステンレスプレートにこびりついた油汚れを落とすわけですが、プロとして合格点をとろうとすると、これがけっこう難しいんです。

 まず、使う洗剤を間違えたらダメ。減点です。ハンドパッド(業務用のスポンジ)でこするときも、やみくもにゴシゴシとこすってはダメで、一方向に、ゆっくり動かします。その方向もどっちでもいいわけではなく、ヘアライン(ステンレスの光沢を出すために一定方向につけた細かい筋目のこと)に沿っていないといけません。

 数人ずつ同時に実技練習をするのですが、あるとき、4枚のうちの1枚だけ、他のプレートと違う方向にヘアラインの入ったものを置いておきました。他のプレートは長辺に沿ってヘアラインが入っているのですが、それだけ短辺に沿ってラインが入っています。つまり、90度回転させて机の上に置くのが正解。ちょっとしたひっかけ問題ですね。

 それに当たった人は、はじめは気づかずに、他の方と同じように長辺に沿ってハンドパッドを動かしました。途中で気づいて、「あっ!」。周囲の人は「なになに?」。というわけで、みんなでヘアラインの方向について再確認しました。

 単に「一方向にこする」とマニュアルで覚えていると、間違えやすいんですね。なぜそう決まっているかといえば、ステンレスに傷をつけないためですから、そのことを理解して、心を込めて汚れに向き合っていれば、プレートの正しい向きに気づけるはず。検定ではあるけれど、実際にお客様のご自宅にうかがったつもりで作業をしないといけないんです。

新津さん(右)と築山さん

 拭き掃除ひとつをとっても、気持ちが入っている人は、掃除する場所をしっかりと目で追い、きちんと四角をとって、ゆっくり、ていねいに拭きます。単なる精神論ではなくて、水気が残っているとカビの発生の原因になりやすく、そこから臭ったりすることがあるんです。理屈がちゃんとわかっている人は、溝や隙間、ネジなどの細かい部品が使われているところなど、手の届きにくいところもタオルの端や先をうまく使って拭き上げて、カラッと仕上げます。

 同じ手順で同じ作業をしているように見えても、ちゃんと基本を理解してやっているかどうかは、見る人にはわかってしまうもの。

 ひとつひとつの動作には、すべて意味があるのです。(#2に続く)