でも、その人個人を責めても仕方がない。そういう環境で育った人だと思うから。たとえば、「勉強をしないと掃除夫にしかなれませんよ」というような親に育てられた子どもは、清掃の仕事は尊敬しなくていいと思うようになってしまうでしょう? そういうふうに大人になってしまった人たちを1人ずつつかまえて説得しても、考えを変えることはできないと思います。そうしたいとも思いません。
それよりも、社会の価値観そのものを変えていきたいと思うのです。
そのためには、私たち清掃員がいい仕事をするしかありません。自分の仕事に誇りを持って、納得できるまできちんとやり遂げること。それを続けていれば、気づいてくれる人は必ず現れます。
「ここのトイレはいつもきれいですね。ありがとう。きれいに使わなくちゃね」
羽田空港でトイレ清掃の現場に入っていたときに、利用者の男性から言われた言葉ですが、こういう言葉を聞くと、本当にうれしい。自分が褒められたからうれしいのではなく、清掃の仕事をきちんと認めてくださっているのがうれしいのです。
羽田空港(第1・第2旅客ターミナル)には1日約500人の清掃員が働いていますが、みんながそういう気持ちで仕事をしてくれているからこそ、「世界で最も清潔な空港」に2年連続で選ばれることができたのだと思います(編注:2015年12月時点。2013年、2014年に「世界で最も清潔な空港」に選ばれた)。
清掃は面白い仕事です。毎日違うお客様が来て、そこでひとときを過ごす。どうしたら気持ちよく過ごしてもらえるか、考えて、工夫して、それがお客様に伝わったときは本当にやりがいを感じます。技術を磨いていく喜びもあります。清掃員は「職人」。そういう誇りを持って仕事をしています。
私は、清掃の仕事が大好きです。
先日、若いスタッフと話す機会があり、「新津さんは、今の仕事をやめたいと思ったことや、別の仕事をしたいと思ったことはなかったんですか?」と聞かれました。
私は迷わず、「ないです」と答えました。