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「私たちも人間なんです」清掃員の目の前でゴミをポイ捨てする人も…“世界一清潔”な羽田空港のプロ清掃員が感じた“清掃業への偏見”

『世界一清潔な空港の清掃』より #1

2023/08/24
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 仕事をやめたくなるときって、どんなときでしょう。たとえば、会社の誰かとケンカしたときや、自分が納得できないことがあったとき。あるいは、自分は正しく評価されていないと思ったときとか。たぶんそういうときに、もうやってられない、やめてやる、となるんだと思います。

 私もそういうことはたくさんありました。先輩にいじわるをされて、仕事をさせてもらえなかったこともあります。でも、そのときでもやめることは考えませんでした。

 なぜって、この仕事が好きで、自分で選んだからです。自分で決めて、この仕事を覚えるために来ていると思っていたから、やめてしまったらなんのためにここに来たのか、そもそもの目標がわからなくなってしまいます。それに、やめたからといって、一緒なんです。他の会社、他の仕事へ行ったらまたゼロからのスタートになって、せっかく今成なそうとしていることを失ってしまう。ゼロから始めてもまた同じことを繰り返すかもしれません。私は自分の目標がわかっていたから、ケンカをしたり嫌なことがあっても、心は折れなかった。

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私の喜びは何かをやり遂げること。

 誰でも、自分にとっていちばん大切なことを、それぞれに持っていると思います。その大切なことを、まわりに左右されないようにすることがとても大切です。

 今の会社に入る前に、清掃以外の会社に勤めたことがあります。音響機器のメーカーでしたが、その会社をなぜやめたかというと、自分にできることを覚えきってしまったからです。ここまではできるようになったから、じゃあ次はこういうふうに勉強しようと自分なりに考えても、それは求められていなかった。そうすると、私がそこにいる意味がなくなってしまうんです。お金をもらえればそれでいいとは考えていませんでしたから。

 それでその会社をやめて、職業訓練校に入って、清掃のことを基礎から勉強することにしたんです。

写真はイメージです ©iStock.com

 私の喜びは何かをやり遂げること。そして、清掃の仕事が大好き。

 このふたつが、私にとって大事なことです。自分にとって大事なことがはっきりしていれば、誰が何を言っても、左右されることはありません。

 そうなるためには、やっぱり、自分で選び取らなければいけないんです。