衝撃を受けました。掃除は誰もが常日頃していると思いますが、少なくとも私は水回りや汚れた所を掃除する時、面倒くさがってしまいます。嫌な気持ちになり、汚れを見て見ぬふりをしてしまうこともあります。汚れたものを思いやることや、優しさを持つなんてできないかもしれない。それを新津さんは自分のためではなく、自然と、そこを使う誰かのためにしている。
「人に評価されるからやってるわけではないんですよね。そこまで私は思ってないんです。自分がどこまでやれるか、自分を清掃の職人だと思っているんです。あくまでそれをやった上で、人がこう感じました、喜ばれたというのが人の評価ですから。すべてが人に褒められるということを目的にしていないんです」
胸が一杯になった新津さんの言葉
そのどこまでも優しい心は、清掃の域に留まりませんでした。ロビーで電車の磁気カードを拾えば、持ち主を探しに空港中を駆け回ります。道に迷った人がいれば、率先して道案内。荷物で手がふさがっている人がいれば、先回りしてドアを開けて待ちます。それがたとえ夜勤明けでふらふらであっても、絶対に疲れた顔を見せませんでした。それどころか、もっとお客様のためにできることはないか、どこまでも奥深く自らの仕事を突き詰めようとする姿がありました。
「空港は家と思っているんですよ。自分の家だと思っているんで、おもてなしでないといけないんです。自分の家に、いつも来てくださいよって、リラックスしてくださいよって。リラックスっていうのが、きれいでないといけないんですよ」
新津さんは、決して順風満帆な半生を送られてきたわけではありません。残留日本人孤児2世というだけで中国でも日本でもいじめにあい、自らの居場所を見いだせずにいたそうです。さらに日本に帰国した際は十分な蓄えもなく、一時はパンの耳を食べて過ごした日々もあったと聞きました。
それでも、決してうしろを振り向くことはしない。誰に気づかれなくてもいい。誰に認められなくてもいい。ただ、この場を使う人がきれいだって喜んでくれるだけで救われる。
新津さんは、今は十分幸せな人生を送っている、と言っていました。
そして朝6時、夜勤を終え、へとへとの姿でゴミ拾いを続けた新津さん。
「今日も、お客様にとって幸せな1日になるといいね」
私は、胸が一杯になりました。