十時の線路の結節点「西宮北口」が結びつけるもの

 このように、「西宮北口」は順調に巨大ターミナルへの道を歩んだ。しかし、1988年にはブレーブスが身売りして西宮球場の存在が浮いてしまう。このあたりは、ニシキタの未来が栄えるか否かの岐路だったのだろう。さて、球場をこれからどうするか、といったところで阪神大震災。そこからの展開は、先に書いたとおりだ。

 いまの西宮北口駅の姿は、阪急電車創業期からの古くからのこの地の伝統を残しつつ、それでいて巨大な商業施設や再開発ビルによる新しさも兼ね備えたものだ。下町らしさが失われているのが寂しい、という声もあろうし、ガーデンズに客を奪われてたまらんという商店主もいるだろう。

 

 ただ、ヨソ者の視点でおおざっぱにいえば、マンモス商業施設と昔ながらの商店街が駅を挟んでそれぞれの個性を持ちながら共存しているのはなかなか珍しいのではないか。十字に線路が交差して、町が“分断”されていたのが幸いしたのかどうか。いずれにしても、こんな難しいことをいとも簡単に実現してしまう、それこそがジスイズ阪急、なのかもしれない。

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