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「こいつは怪しいです。調べてください」

――「山写」というハンドルネームで一時期、脚光を浴びた山岳写真家の嘘を森山さんが暴いたことがありましたよね。エベレスト、マカルー、カンチェンジュンガの8000m峰3座を登ったと言っておきながら、いずれも嘘だった、と。あの人の場合は、どうだったのですか。彼と組んでいたアウトドアメーカーの人たちは発言や佇まいから何かおかしいなとは感じなかったのでしょうか。

森山 僕もそれがすごく不思議だったんです。先鋭登山に詳しい人なら、ひと目見たら、それなりの登山家かどうかだいたいわかるはずなんです。いちばんわかりやすいチェックポイントは指ですね。一流のクライマーの指は太いんです。グローブみたいな手をしている。なので、山写さんの場合も手と体型を見て、これは怪しいなと思いました。でも、僕らが思っている以上に、そういうのはわからないものなんでしょうね。

――栗城さんや山写さんのことがあって、森山さんに「山岳警察」のような働きを期待する向きもあるかと思うのですが、大変ではないですか。

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森山 ときどき変なメールが来るんですよ。「こいつは怪しいです。調べてください」とか。いやいや、自分でやれよ、って言いたくなりますけど。ものすごく影響力の強い人物が嘘をついているというのならまだしも、無名の人がちょっとした自己顕示欲で適当なことを言っているくらいは社会的な害悪はないじゃないですか。

2015年に行われたネパール復興チャリティイベント「ネパールと共に」に出席した栗城さん ©文藝春秋

登山の世界にも汚いやつはいっぱいいる

――やはり森山さんの中には、山の世界を冒涜するような嘘は許せない、というのがあるのですか。

森山 よくそういう風な見方をされるんですけど、それは正直ないんです。自分がひねくれているのかもしれませんが、僕は登山が神聖なものであるとか一切、思っていないんですよ。山を冒涜するのはけしからんという感覚も全然ない。登山の世界って清く正しいみたいなイメージがあると思うんですけど、汚いやつもいっぱいいますから。そこは普通の社会と同じだと思うんです。

――登山界の成り立ちというか仕組みを知れば知るほど、嘘をつきたくなってしまう気持ちもわかりますよね。

森山 僕も罪を裁くみたいな気持ちはまったくないんです。警察ではないので。嘘をついたからといって、なんてひどいやつなんだと思っているわけでもない。