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――むしろ、興味がありますよね。なぜ、嘘をついてしまったのか。

森山 そうそう。じつは、山写さんに一度、じっくり話を聞いてみたくて、連絡したことがあるんです。ただ、返事はありませんでしたね。もし彼がどうしてこういうことをしたのか詳しく話してくれたら、広がりのあるテーマになると思っているんですよ。最近、SNSインフルエンサーで身を持ち崩していく人って、いっぱいいるじゃないですか。やり過ぎて、炎上して、そして消えていく。山写さんもおそらく日本から「今、カンチェンジュンガにいます」ってツイートしていたんですよ。そこまでしてしまう心理の先には何があるのか、知りたいと思う気持ちもあります。

崇高に見えて実は人間臭い、登山の世界

――これからも第二の栗城さん、山写さんのような人は出てくるのではないですか。日本の登山界と、それを取り巻く状況って、それくらい不用心に映るんですよ。ある意味、誰でも入ってこられてしまう。今、日本を代表する登山家は誰だと思いますかというアンケートを取ったら、まったく見当違いの結果になると思うんです。結局、アナウンスメント力のある、発信力のある人が上位にくる。

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 トップ中のトップの登山家ですら、世間では無名に等しいじゃないですか。それくらい登山の世界は世間と隔絶してもいる。登山関係者の取材に行くと、時々、今のこの状況はメディアの責任だと言われることがあるんです。メディアがきちんと勉強して、しかるべき登山家を紹介しないからだ、と。ただ、登山家は、露出しない美学みたいなものを持っている人が多いじゃないですか。だから、半分はわかるんですけど、もう半分は、あなたたちがしっかり発信しないからではないですかとも思うんです。

森山 わかります。多くの人は、本音のところでは出たいんですよ。自己顕示欲はある。むしろ、登山家という人種は普通の人より強いと思いますよ。ただ、その自己顕示欲が素直じゃなくて、出たくないという方向に走ってしまう。そのくせ、「ちゃんと扱ってくれない」みたいな文句を言う。わがまま言うな、って思うんですけど。

――どうであれ、癖があって、魅力的な人たちなんですけどね。

森山 登山の世界って、崇高なように見えて、実態はかなり人間臭い世界なんだと思いますよ。