知香は「家で子供の面倒をみてくれている人が怪我をしてしまったので、帰らせてください」と嘘をつき、職場を早退した。家に着いたのは約30分後。歩夢くんは着替えを済ませていたが、お漏らしした箇所はそのまま。歩夢くんを叱りつけた知香は石井から「クイックルワイパー」を手渡され、1時間近くかけて、我が子が粗相した和室を掃除した。途中、石井は「まだ臭う」と何度もダメ出しをした。
泣きながら起き上がる歩夢くんを4回、5回投げ倒す
石井が歩夢くんを問い詰める。
「ママが掃除をしているのを見て、何とも思わないの?」
矛先を向けられ身をこわばらせる歩夢くんは、言葉を発することができない。以前も些細なことから石井の逆鱗に触れ、歩夢くんは丹羽から逆さ吊りの体罰を受け、失禁したことがあった。
「知香、相撲を取ったら?」
この家で「相撲」とは、歩夢くんに足を掛けて投げ倒す、強烈な痛みと恐怖を伴う体罰を意味する。歩夢くんはこの日も、大好きだったはずの母の知香に、足を掛けられて畳に叩きつけられた。泣きながら起き上がる歩夢くんを、また知香が投げ飛ばす――。法廷で、その回数を知香本人は「4、5回」、丹羽は「10回くらい」と答えている。
歩夢くんはまともに話せないまま。石井が提案する。
「洋樹さんも相撲を取ったら?」
子育て経験のない丹羽は、元保育士を自称する石井を妄信。石井に言われるがまま、躾とは名ばかりの暴行を歩夢くんに浴びせてきた。
「暴行という認識はなく、躾だと思い込んでいました。(石井のことは)信頼できる、道徳心のある、真面目な“女神様”のような人だと思っておりました。彼女と積み重ねてきた10年間の思い、彼女の言葉だったり、行動だったりが、全て信頼に値すると思い、社会人としての道徳心より、愛情が勝ってしまいました」(8月30日・丹羽の被告人質問より)
屈強な元ラガーマンの丹羽は、歩夢くんと向かい合い、両脇を持ち上げた。宙に浮いた小さな体は、丹羽の右腰に乗せられるようにして角度を変え、反動をつけて床に背面から叩きつけられた。歩夢くんは、寝転んだまま起き上がれず、激しく泣いている。
2日前の1月16日にも、就寝の挨拶を言えなかった歩夢くんに石井が腹を立て、母子は相撲を取らされていた。その際、歩夢くんの頭にはラグビー用のヘッドキャップが被せられていたが、この日は無防備な状態。しかも、石井から “真打ち”とおだてられている丹羽が立ちはだかったのだ。
「救急車を呼ぶべきだ」と丹羽は主張したが…
そして――。丹羽が再度、歩夢くんを畳の上に叩き落とす。後頭部を強打した歩夢くんは、明らかに様子がおかしくなった。これまで2人に従属してきた知香が「もうやめて!」と止めに入る。
「意識がなくなっているというか、目の焦点も合っていないし、今までに聞いたことのない呻き声を上げていました」(8月29日・知香の被告人質問より)
すぐに救急車を呼ばなければ――。だが、それを拒んだのが石井だった。
石井「救急車を呼んで、何て説明するの?」
丹羽「階段から落ちたことにする。俺の監督不行き届きだったと説明するから」
石井「そんなの、お医者さんが見たら、本当に階段から落ちたかどうかなんて、すぐに分かるんだよ」