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 それでも丹羽が救急車を呼ぶべきだと主張すると、石井はこう言い放ったという。

「勝手なこと言わないで。私たちにも生活があるんだから」

『で、どうするの。』隠蔽に向けて立ち回ろうとした石井

 歩夢くんの「父親代わり」を自任してきた丹羽は、最優先すべき行動から逃げた。

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「知香さんも、虐待を疑われるんじゃないかと言っていた記憶があります。私はアオイ(※石井の通称)を愛していましたし、知香さんも家族のように愛していました。彼女たちの思いを守ってあげたいと思いました。彼女たちの意志を尊重してしまって、119番通報をしませんでした」(丹羽証言)

 あるまじき大人たちの押し問答が続く中、幼い歩夢くんの命は、今にも消え入りそうになっていた。

 我が子の最期を、知香は法廷で次のように振り返っている。

「私は同じ部屋で歩夢を看ていました。息も苦しそうで、痰が絡んだような、ゼイゼイとした息をしていて。意識はありませんでした。パニックで頭が真っ白になっていたこともあり、行動に移せませんでした。途中で1回、手や足に力が入ったりして、意識が戻るかなと思ったんですけど、やっぱりまた手足がダラーッとなって。呼吸も弱くなり、最後は私が抱っこしている時に、息が止まってしまいました。心臓が動いているか触って確認したんですが、ダメで。泣いてしまいました」

 後に判明した歩夢くんの死因は、後頭部強打よる脳幹損傷だった。事の重大さに慄いた丹羽は、台所に駆け込み、吐き続けていたという。そんな中、隠蔽に向けて立ち回ろうとしたのが、やはり石井だった。

石井陽子容疑者(ANNより)

 知香の法廷証言。

「この後のことを話し合わなきゃいけないから泣き止むように言われ、『で、どうするの。このまま警察に捕まるの』と。そうすると、『(歩夢くんの)骨は、旦那の方に行っちゃうよ』と言われ、私は『それだけはイヤです』と言いました」(知香証言)

小さな亡骸の体に生ゴミ発酵促進剤を振りかける

 石井が知香に畳みかける。

「部屋の畳を上げたら下は土になっていると。以前、白アリの駆除で見たことがあるとのことでした。そこに埋めてあげて、骨になるまで待つのはどうかと提案されました」(同前)

 知香は、歩夢くんの父親に遺骨が渡ることを避けたいあまり、悪魔じみた提案を受け入れたのだ。その日、知香は歩夢くんの亡骸を布団に入れ、一夜を過ごしたという。丹羽と知香は、翌1月19日午前9時から3人で鍬とスコップを使って約5時間をかけ、床下に穴を掘ったという。

現在の事件現場。地中からは歩夢くん(当時5歳)の遺体が発見された ©文藝春秋

「石井さんが、服を着ていたら骨になるまで時間がかかるというので、歩夢の服を全部脱がせて、その服は形見にしようと思って、布団圧縮袋に入れました。(歩夢くんの)髪の毛も形見にしようと、少し切ってジップロックに入れました」(知香証言)

 暗い床下の土中に葬られゆく小さな亡骸のお腹には、生前、歩夢くんが大好きだった仮面ライダーの変身ベルトが知香の手によって添えられた。そして、最後に体に振りかけられた粉末は、生ゴミなどで堆肥を作る防虫発酵促進剤だった。