この日の「news every.」はジャニーズ事務所の性加害問題を報じるだけにとどまらなかった。中学校時代に性被害を受けて「性被害で人生が変わってしまった」という40代の男性のインタビューも放送している。空き教室のあるフロアで裸にされて自慰行為を強要されるようないじめの被害があったほか、加害者である男性の先輩に呼び出されて性的暴行をたびたび受けた。心身に不調を来たし、被害を心療内科の医師に訴えても苦しみを理解してもらえなかったという。ここでは、男性が性被害を訴える難しさを伝えていた。
この日、ジャニーズ事務所の性加害問題だけでなく、一般社会にもある男性の性被害について被害者の声を報道したニュース番組は「news every.」だけだった。それだけに問題意識の高さを感じた。
あえて「反省します」と口にすべきなのか
ジャニーズ事務所の性加害問題ではテレビを含めた「マスメディアの沈黙」が背景にあって、テレビも新聞も猛反省しなければならないことは明らかだ。ただ、そのことを「反省します」と口にすべきなのかどうかはそれぞれの姿勢に関わる問題だろう。
藤井アナは“決意表明”をしたわけではない。それでも、スタジオで冷静にニュース番組の進行役を務め、橋田さんに語りかける言葉づかいなどで人柄や思いが伝わってくるようなやりとりを見せた。その2日前までは「24時間テレビ」の企画で、「世界の果てまでイッテQ!」チームとともに琵琶湖遠泳に挑戦していた。バラエティー番組も担当し、ジャニーズ事務所のタレントたちと長い付き合いがあるだけに、安直な“決意表明”を言葉にするのは本人にとって違和感があったのかもしれない。
筆者の知る限り、あえて自分の意見を表明しない姿勢を見せるのは、イギリスBBCの報道番組のキャスターたちがすぐに思い当たる。日本ではNHK「クローズアップ現代」のキャスターを務めていた国谷裕子さんも同様の姿勢だった。自分の考えや主張を言葉で示さない。インタビューの質問などを通じて間接的に示していくやり方だ。
非常に難易度が高い伝え方であり、プロのキャスター、アナウンサーとしての覚悟の示し方なのだと感じる。筆者の周辺にはアナウンサー志望の学生も少なからずいるが、それらの人々に理想とするアナウンサー像を訪ねると藤井貴彦アナの名前がよくあがる。人柄が温かくて裏表がなくて好きだというのが主な理由だが、人気の一端はこういうところにもあるのかもしれない。