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「すごい過密スケジュールですね」

「そうね。関心を持ってもらっているのはありがたい」

世界が「楽天モバイル」に注目する理由

 アジアの東の端で、最後発で携帯電話事業に参入した楽天モバイルが、世界中の注目を集めている。それは「携帯ネットワークの完全仮想化」という、これまで誰もやったことのないイノベーションを商用ベースで実現したからだ。

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「仮想化」とは簡単に言うと、ハードをソフトに置き換えることだ。たとえば、1980年代初めは、誰もが「書院」とか「オアシス」といったワープロ専用機を使っていたが、1985年ころからはパソコンにインストールされた「一太郎」や「ワード」といった日本語ワープロソフトを立ち上げて文書を作成するようになった。「キーボードを叩いて文字を書く」という作業がハードウェアからソフトウェアに置き換わったわけだ。

 どんなパソコンでも文書が作成できるようになったように、楽天モバイルの通信技術は、基地局に高価な専用機器を使わなくても、汎用サーバとソフトウェアだけで携帯電話の通信を可能にした。この状況は、かつて大企業や中央官庁で標準的に使われた大型コンピューターを中心とする「メインフレーム・システム」が、1990年代にはパソコンとサーバをネットワークした「クライアント・サーバ・システム」に置き換わっていったこととよく似ている。

 中央集権的なメインフレーム・システムの場合、それにつながる端末からデータを蓄積するストーレージ、果てはプリンターまで周辺機器を含め、すべてをひとつのメーカーの仕様に合わせなくてはならなかった。その生態系の頂点に君臨したのが米IBMであり、IBMのメインフレームを選んだユーザーは、システム丸ごとの構築をIBMに委ねるしかなかった。

 これに対して、ほとんどのデータ処理をソフトウェアがこなすクライアント・サーバ・システムでは、ユーザーはさまざまなメーカーの機器を自由に組み合わせて使用することが可能になった。競争状態が生まれることでシステムの投資負担は劇的に引き下がる。

 既存の携帯ネットワークはメインフレーム・システムと同じ中央集権型である。携帯電話事業者は、通信機器メーカーの大手─「ノキア」、「エリクソン」、「華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)」の3社で世界シェアの8割を占める─に通信設備を発注すると、メーカー1社にすべてを丸投げすることになる。