1ページ目から読む
4/5ページ目

 この日、三木谷は夕方の6時までぶっ通しで5件の商談を続けた。その後、アミンたち、リアルではなかなか会えない楽天幹部を集めて1時間ほどミーティングをこなし、そのまま顧客の接待に出かけた。この夜はディナーが2件。そこから、仲のいい欧州の大物起業家とバルセロナの街に繰り出し深夜まで痛飲した。

世界標準の赤字

 日本ではさかんに「経営難」が喧伝される楽天が海外の携帯市場では台風の目になりつつある。

 三木谷は楽天市場や楽天カードで稼いだ利益を携帯事業に注ぎ込み、日本で「完全仮想化」「Open RAN」を実証した。しかし技術的に「できた」ことと「稼ぐ」ビジネスではわけが違う。2022年12月期の連結決算は最終損益が3728億8400万円の赤字。最終赤字は4期連続だ。

ADVERTISEMENT

 この赤字、三木谷にすれば「世界進出」の野望に向けたベット(賭け金)なのだが、日本のメディアは危機的な「業績不振」と見る。

〈楽天グループが苦境〉(日本経済新聞電子版2022年2月18日)

「楽天ってやばいんでしょ。モバイルの借金がすごくて」

 筆者の周りでも、そう話す人が増えている。

 2022年度の通期決算。モバイル事業の営業損益は4928億円の赤字だった。三木谷自身も「危機といえば危機」と認める。楽天が2022年11月と2023年1月に発行したドル建て無担保社債の利率は10.25%。2019年に発行したドル建て債の利率(3.5%)と比べると約3倍の高利、資金需要の逼迫ぶりが分かる。

 だが、世界標準の見方をすれば、新規事業に挑む企業が抱える赤字としては、「健全な数字」だ。

 EC(インターネット通販)大手の「アマゾン・ドット・コム」も、EV(電気自動車)の「テスラ」も創業からしばらくは大赤字が続いた。どんな企業でも、新たな事業を始めようと思えば先行投資で最初は赤字が続く。その苦しい期間を支えるのがベンチャー投資家であり銀行だ。冬の時代を耐え抜いた起業家、投資家、銀行は、事業が花開いたときに莫大な利益を手にする。これが資本主義のダイナミズムである。