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 その後も福島県産の桃の価格はなかなか戻らなかった。風評被害が根強かったのに加え、小売りで他県産に奪われた陳列棚を取り返すのは容易でなかったのだ。

原発事故を機に長野県産との順位が逆転

 東京都中央卸売市場で全国平均との価格差が2割以内に収まるようになったのは2018年からだ。発災から7年が経過してもそのような状態だったのだから、2022年産の12.7%という価格差は縮まった方なのである。

 福島の桃が出荷の最盛期となる8月の価格を見てみよう。2022年に東京都中央卸売市場で取り引きされた桃のキロ単価は、山梨県産が763円、長野県産が622円、福島県産が600円だった。原発事故前は長野県産より福島県産の方が高かったのに、被災を機に順位が逆転し、抜き返せないでいる。

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「中より上のランクで取り引きされていた桃が、中の下になってしまった」と、あるJA関係者は残念がる。そうした位置づけの固定化に福島県庁は危機感を抱いた。

 そこで2022年、新たな視点で様々な調査を行った。首都圏、中京圏、阪神圏、北海道、沖縄県、福島県の6圏域に住んでいる20~69歳の女性にウェブでアンケートをしたほか、量販店や百貨店の福島県産品の売り場に来た人にもアンケートをした。販売店や卸業者への聞き取りや、桃の出荷量が日本一となっている山梨県へのヒアリングもした。

 その結果、多くの課題が浮かび上がった。

 首都圏で福島、山梨、山形、長野の4県産の桃をどの程度買いたいか尋ねたところ、「積極的に買いたい」と答えた人は、山梨県産がトップで30.0%だった。福島県産はこれに次ぐ23.4%。「応援しよう」という消費者が一定数存在することがうかがわれる。

 ただし、「買わない」「あまり買いたくない」と答えた人は、山梨、山形、長野の3県産が9.7~11.0%だったのに対し、福島県産は20.4%と突出していた。風評被害が原因と見られる。つまり、買って復興に寄与したいという消費者がいる一方で、「買わない」という人も多く、購買層が両極端に分かれる傾向が見えた。

 そもそもの問題として、人は何を基準に桃を買うのか。アンケートでは「有名な産地を選ぶ」という人が6割もいた。

 では、桃の産地として思い浮かべる県はどこか。北海道から沖縄まで6圏域の消費者アンケートを合計すると、1山梨(57.3%)、2岡山(46.5%)、3福島(46.2%)の順だった。

福島の桃はガリガリでマズかった?

 山梨は桃の出荷量が日本一なので、ある意味当然だろう。だが、出荷量が第2位の福島は、第6位の岡山に負けていた。これは桃のブランド戦略に原因がありそうだ。岡山はかつて県庁が仕掛けた「桃太郎伝説の地」という宣伝が全国に行き渡っている。品種も「白桃」が有名で、岡山と言えば白桃を思い浮かべる人が多い。