これがどれだけ周知されているか、意外なところで分かる。百貨店「髙島屋」新宿店の販売第4部(食料品・食堂)次長、桑原慎太郎マネジャーに聞いた話だ。桑原マネジャーはバイヤーとしての経験も豊富で、福島県庁と協力した福島県産品のフェアに取り組んできた。そうした売り場で消費者が手に取るのは「白っぽい桃」なのだという。
「白桃は高級、ピンクの桃は普通というイメージになっているようです。だから、福島県産の桃でも白っぽいのを選ぶ人がいます」と語る。
しかし、福島の主力品種「あかつき」は赤々と実った方が美味しい。
にもかかわらず、赤ではなく白っぽいのを選ぶのだから、「岡山の白桃」のイメージがどれだけ強いか。逆に「福島のあかつき」のブランド力が弱い証拠のような話でもある。
アンケートからは見えてこないが、東京と福島では好まれる桃の果肉が違う。
東京では柔らかさが好まれ、福島では硬さが好まれる。硬い桃の代表品種は「あかつき」で、福島では歯ごたえから楽しむ人が多い。こうした違いを知らずに、「福島の桃はガリガリでマズかった」と言う人がいる。そうした面の周知宣伝も弱いのだ。
ちなみに「硬い桃」は日持ちがするので、数日常温で置いて追熟させれば柔らかくなる。
福島県庁はアンケートなどを分析した結果、価格の低迷を打ち破るにはブランド力の強化と他県に遅れた販売方法の改善が必要という結論に至った。
こうした対策は本来、既に行っておかなければならなかったことだ。だが、福島県農産物流通課の吉田安宏主幹は「被災後の12年間は、風評被害の払拭に注力せざるを得ませんでした。その間に他産地はブランド化に力を入れ、大きな差がついてしまったのです」と嘆く。
様々な対策のうち、当面力を入れているのは箱詰めする量だ。
「ありが桃(とう)」と刷り込んだ新しいピンクのパッケージ
小売り店でのバラ売りは別にして、これまでは5kg入りの段ボールでの出荷が主流だった。「あかつき」なら15~18玉になる。大家族なら自宅で買っても、贈答用にしても、十分な量だろう。しかし、核家族化が進み、特に高齢者だけの世帯が増えていて、「食べきれないし、配ろうにも近所付き合いがない」という声が聞かれるようになっていた。
こうした時代の変化に対応するため、山梨県などでは小さなパックで販売しており、好評だ。
福島県も遅ればせながら新しいパッケージで試験販売することにした。
青いパッケージに高糖度の桃を1個だけ入れた一人用。「自分へのごほうび」などとして買ってもらおうと考えた。