NHKでも重大に捉えていなかった
当時、NHKの関係者はどう捉えていたのか。2004年、NHKの歌謡・演芸番組部長だった大鹿文明氏が番組のインタビュー取材に応じた。紅白歌合戦などを統括する当時の責任者で、芸能番組部門の大物だ。
「大きな犯罪とか事件だと捉えなかった。芸能部長になったわけですから、逆に言えばそういう『センサー』というんですかね、持ち得ているべきだったのかなって気がしますね」
大鹿氏は長年、番組の美術を担当してきたが、チーフ・プロデューサーだった人物が巨額横領事件で逮捕されるなどの不祥事を受けて、2004年に専門ではない歌謡・演芸番組部長に就いた。当時、性加害問題については認識しておらず、部内でも話題になることはなかったという。
「事務所との交渉を少し慎重にやろうねとかっていうことが一切なかったですね。(部内では性加害を)重大に捉えていなかった。そこに尽きるでしょうね。未成年に対して許せないことをやっていたという意識は薄かったなって気はしますね」
番組が聞き取りをした元NHK職員の中には「週刊文春」の報道や裁判について知りながら、問題視することはなかったという元幹部もいた。
・裁判のことは知っていたが、出演の判断に影響を与えることはなかった。
・売れているタレントをキャスティングしたかった。
「“猛省”という言葉を使って軽すぎるのかもしれないぐらい」
2005年、大鹿氏が責任者だった紅白の舞台裏を描いた「いよいよ明日!ドキュメント 紅白が変わる」という番組では、大鹿氏自身の様子も放送されている。紅白視聴率の低迷が指摘される中で、この年もジャニーズ事務所のタレントが起用された。
「芸能とか娯楽番組っていうのは、やっぱり見てもらってなんぼやっていう意識を持つじゃないですか。それは僕は否めないと思っているんですけどね。そうなってくると、そのバックに持っている(ファンの)数っていうのが非常に『欲しくなる』っていうんですかね……」(大鹿氏)
人気や知名度のある芸能人を起用して番組を作る一方で、当時は性加害問題には思いが至らなかったという大鹿氏。今は重く受け止めている。
「この事件があまりにも若い子どもたちをあんな目にあわせたという、ある種、マスコミが加担したんではないかと言われることに対して、責任を感じるところがあって。これはなんて言うんですか、“猛省”という言葉を使って軽すぎるのかもしれないぐらい」(同前)
被害にあった人たちのことを思ったのか。大鹿氏の目は少し涙ぐんでいるように見えた。