ジャニー喜多川氏の性加害問題。ジャニーズ事務所が記者会見で性加害を認めて被害者に謝罪した一方で、テレビを始めとした「マスメディアの沈黙」が被害を拡大させ、結果的に加害に加担した構図も明確になっている。
報道番組や情報番組では、ジャニーズ事務所だけでなくメディア側もなぜ「沈黙」を守ってしまったのか検証すべきだという批判や、テレビ局も第三者委員会を設置すべきだという声も出てくるようになった。
テレビはなぜ沈黙したのか。そこにはどんな力関係があったのか。「忖度」があったとされるが、担当者たちは実際にどのような判断をしたのだろうか。
上司の命令などがあったのか。個々の職員は性加害について本当に知らなかったのか、何を考えて沈黙していたのか。
言うべきことを言わず、結果的にジャニーズ事務所の性加害問題を止めることができなかったテレビ局の責任を検証しようという番組が出始めている。口火を切ったのが9月11日に放送されたNHK「クローズアップ現代」(以下、「クロ現」)だ。タイトルは「“ジャニーズ性加害”とメディア 被害にどう向き合うのか」。
自らを「検証」する取り組み
再発防止特別チームの調査報告書によると、メディアが性加害について取材して報道するタイミングはこれまでに何度もあった。
「クロ現」では、1999年に始まった「週刊文春」のキャンペーン報道などについて言及。性加害についての記述が真実であると認定された2003年の高裁判決や、2004年の最高裁での高裁判決の確定のタイミングで、少なくとも報道することができたのではないかと考え、当時、NHKや民放で報道や芸能の責任ある立場にいた人たちを取材。組織の内部で何があったのかを聞いて放送した。
テレビ局が内部の意思決定について自らを検証する——かつてない画期的な取り組みだった。例えば原発をめぐる報道で、テレビが震災前にどこまで原発事故に警鐘を鳴らしていたのか、「メディアの沈黙」があったのではないか、「自己検証」をすべきだという声が評論家などからは上がっていた。だが、実際に行われたことはほとんどない。「検証」が行われるのは、番組がBPO(放送倫理・番組向上機構)などから重大な放送倫理違反を指摘されたケースなどにごく限られている。いわば、外から「検証」を迫られた場合ばかりなのだ。そうした中でNHKがあえて自主的に検証に取り組んだ意味は、けっして小さくはない。