やっぱりそうだ。面倒なことには巻き込まれたくなかったからとりあえず名刺だけ適当に受け取って、話は無視して学校に向かった。その日は、それで終わりだった。
そんな出来事も忘れかけていた頃、友達からある質問をされた。
「アイカ、ヒロくんと知り合いなの?」
この人だよ、と見せられた写真を確認すると、この間私に声をかけてきた大学生と同一人物だった。
「あ、この人。知り合いっていうか、この前駅で声かけられただけだよ」
「やっぱり! ヒロくんがこの前“駅でJKに声かけた”みたいなツイートしててさ、よく読んでみたらアイカっぽいなって思ったんだよ」
「友達なの?」
「うん。私ダンスやってるから、たまにイベント出て手伝ったりしてるんだよね。アイカもダンスやってたんでしょ? 別に怖い人じゃないし、今度一緒に遊びに行こうよ」
正直そんなに乗り気ではなかったけど、興味本位で顔を出してみることにした。私はもう、自由の身だ。一度くらいこういう遊びを経験しておくのも、悪くないだろうと思った。
最初は軽い気持ちだったけど…
「あ、来た来た。アイカちゃんこっち!」
呼び出されたのは、都内にある狭いライブハウスみたいなところだった。爆音で音楽がかかっていて、あちこちで酔っ払ってはしゃぐ大学生たちの声が聞こえる。
ヒロくんはどうやらサークルの代表みたいで、席の真ん中にドカッと座って仲間と楽しそうに話をしていた。
「ここ、空いてるから座って」
そう案内されて、私はヒロくんの隣に座った。
ヒロくんは、最初から私に気がある感じだった。次のイベントで踊って欲しいとか、今度2人で遊びに行こうとか、ガンガン私のことを誘ってきた。
その後も何度か会ううちにある程度は仲良くはなったけど、2人で遊びに行くことだけはできなかった。当時、私には彼氏がいたのだ。mixiで知り合った男の子で、遠距離恋愛だったけど、彼のことは本気で好きだった。その彼のことを裏切りたくなくて、私は頑なにヒロくんの誘いを断り続けた。
「アイカちゃん、今度お台場行こうよ。2人きりじゃなくて他の友達も何人か来るからさ。それなら、彼氏も怒らないでしょ?」
私の事情を知ったヒロくんは、ある時そう言って誘ってきた。別にヒロくんのことを人間として嫌っていたわけではないし、それなら行ってもいいかな、と思った。いや、思ってしまった。今思えば、それが間違いだった。