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埼玉にある地元の駅から、一緒に電車に乗って池袋まで行ったときのことだ。池袋で降りてすぐ、ヒロくんがイライラしだしたのがわかった。上着とかズボンのポケットを、ゴソゴソと探っている。
「どうしたの?」
私が聞くとヒロくんは、「電車乗る前、喫煙所行ったでしょ? 俺そこにタバコ忘れてきたかも」と言った。
私はまだ高校生だし、タバコは吸わない。私にそれを言われてもどうしようもなかった。
「なにやってんだよクソ!」
「そうなんだ。じゃあコンビニ寄る?」
一応そう聞いてみたけど、たぶんヒロくんが求めているのはそういう言葉ではなかった。
「は? いやいや、なんでそうなんの? ていうか、アイカ俺のタバコ持ってないの?」
ヒロくんのイライラはヒートアップしてくる。でもそんなこと言われたって、未成年の私がタバコなんか持ち歩いているわけがない。
「いや、持ってない……」
ヒロくんの表情が豹変する。初めて2人きりで会ったお台場で一瞬だけ見せた、あの顔だった。次の瞬間、ヒロくんの大声が池袋駅前に響き渡った。
「なにやってんだよクソ! 大体お前さ、なんで俺が忘れ物してないかいちいち確認もできないわけ?」
むちゃくちゃだ。驚いてこちらを見る周りの視線が痛い。一気に顔が赤くなって、身体中から嫌な汗が吹き出すのがわかった。
「なに突っ立ってんだよ! 駅まで戻って取りに行ってこい!」
「わかった、わかったから。ごめんね。すぐ行ってくる!」
私は逃げるようにその場を立ち去って、もう一回池袋から電車に乗って地元の駅まで戻った。
当然、タバコなんて見つかるわけがなかった。