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 当日待ち合わせ場所に行って、ハメられたと気づいた。他の友達なんて誰も来てなくて、そこにいたのはヒロくんひとりだけだった。

「え、誰も来ないの?」

 答えはわかってたけど、一応聞いてみた。すると案の定ヒロくんは、「まあ、いいじゃん。せっかく来たんだし、2人で楽しもうよ」とか曖昧なことを言って強引に私を連れて行こうとした。思った通りだ。信じた私が馬鹿だった。

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「2人では遊ばないって言ったじゃん。私、今日は帰るね」

 そう言って私が立ち去ろうとした瞬間、ヒロくんの表情がほんの一瞬だけ変わるのがわかった。初めて見る表情だ。

――黙って言うこと聞けよ。お前ごときが俺の誘いを偉そうに断るわけ?

 もちろん実際に口に出したわけじゃない。それでも、ヒロくんの表情は明らかにそう言っていた。その顔はすぐに元に戻ったけど、高校生になりたての私に言うことを聞かせるには、それで十分すぎるくらいだった。

「ちょっとさ、携帯貸してくれない?」

 さっきよりも少し冷たいトーンで、ヒロくんの命令が飛んできた。断ったら、なにをされるかわからない。私は素直に従った。

 ヒロくんは私の携帯を使って、ぽちぽちと文字を打ち込んだ。どうやら誰かにメールを打っているようだ。嫌な予感がした。

「はい」

 少し時間が経って、ようやく携帯が手元に戻ってきた。急いで送信フォルダを確認すると、思った通り私の彼氏宛にメッセージを送信した履歴があった。

 “他に好きな人ができたから、別れよう。バイバイ”

 メールにはそう書いてあった。

「よし、それで彼との付き合いは終わり。アイカは今日から俺の彼女ね」

 ヒロくんの言葉に、こちらが反論する余地は一切残されていなかった。平和を取り戻したかに思えた私の生活は、この日からまた一瞬で崩れていくことになる。

ヒロくんはDV男

 ヒロくんはとんでもないDV男だった。

 耳をライターで炙られた。お酒の瓶で頭を殴られた。人格を否定するようなひどい言葉をたくさんかけられた。そしてその後は、信じられないくらい優しくしてくれた。典型的なDV男だ。私は見事にヒロくんにハマっていったし、そしてヒロくんも完全に私に依存していた。これもまた、恥ずかしいくらいにテンプレ通りだった。

 この頃のエピソードはたくさんあるけど、特によく覚えているのが「タバコ事件」だ。