1ページ目から読む
2/2ページ目

ステップ1 まずは韻を踏んだ言葉から入れ替えてみる

 スプーナリズムで面白くなる言葉を見つけ出すコツその1、韻の踏んである言葉から試してみること。たとえば「ジャイアントパンダ」。「ジャ」と「パ」は同じア段の音で頭韻を踏んでいる。だからついつい声に出して言いたくなる言葉なのだ。その「ジャ」と「パ」を入れ替えてみたら、「パイアントジャンダ」。パイアント……意味はわからないけれど、なんだか不思議な響きだ。ほのかに下ネタの香りがしなくもない。ジャンダは絶妙にかっこいい響きだ。南米の音楽ジャンルみたい。

 このように、二つの単語の組み合わせで出来ている複合語には、韻が踏まれているものが意外と多い。まず一歩目は、そういうものを見つけ出して入れ替えてみるのが入門編におすすめだ。しかし落とし穴が一つ。韻を踏んだ言葉を探そうとすると母音に注目しすぎるあまり、子音への注意がおろそかになる。そのおかげで「あれ、入れ替えても全く同じじゃん。あ、どっちも同じ音だった」ということが往々にして起こりがちである。「リトルリーグ」とか「ずいずいずっころばし」とか「となりのトトロ」とか。音の響きがいいからって安易に飛び付いてはいけない。まったく同じ音を繰り返しているんだから響きがいいのは当たり前である。さらにいえば、入れ替える二つの音が近すぎても、あまり面白みが出ない。「タウンダウン(ダウンタウン)」とか「ウライジャ・イッド(イライジャ・ウッド)」とか「じょうねんシャンプ(少年ジャンプ)」とか。日本語ネイティブの感覚からすると、濁音を付け外ししただけとか五十音順ですぐ近くにあるとかだと、「最初からほとんど同じ音」として脳が処理してしまう。「タウンダウンってそれもうほとんどダウンタウンじゃん」という感じになって、意外な言葉のつながりに笑ってしまうというまでには至らないようだ。そのあたりも考えて言葉を選ばないといけない。

ADVERTISEMENT

 そんなわけで、韻を踏んでいる言葉をいろいろ考えてみてちょっと入れ替えを試してみました。まあ入門編ということで、まだまだ面白さは微妙。

明石家さんま→さかしやあんま
鳩サブレー→さとハブレー
新渡戸稲造→いとべになぞう
ミッション:インポッシブル→イッション:ミンポッシブル
宮中歌会始→ううちゅうきゅたかいはじめ
戦場のメリークリスマス→めんじょうのセリークリスマス
野村證券→しょむらのうけん
ロサンゼルス暴動→ボサンゼルスろうどう

 

ステップ2 入れ替えた後もちゃんと意味のある文字列になるものを探す

 いろいろ入れ替えを試してみるうちに、期せずして意味のある文字列が成立してしまうという現象が起きてくることだろう。これはとても重要なこと。「けつだいらアウォード」の投稿作品も、主力はやっぱりこのパターンだ。「しりもんいち」はどうしたって「尻」をイメージさせてくるし、「べこはまヨイスターズ」は「べこ」と「ヨイ」が出てくるし、「俺につけてもそやつはカール」は「俺」と「そやつ」が、まったく意図していなかったにもかかわらず浮かび上がってくる。前述のとおり人間の脳は無意識のうちに意味のある文字列を見つけ出そうとする癖があるので、頭の中でバラバラに入れ替えているうちに「あ、これは並べ替えても意味が成立する」と直感してゆくようになる。その境地に達するまでは、それほど時間は要さないはずだ。

 音を入れ替えた結果出て来たものがまるで無意味な文字列であるよりも、何かしらの意味があるほうが「面白い」と感じやすくなる。それは、そこに発生したわずかな意味からも人間は「文脈」を読み取ろうとしてしまうからだ。たとえシュールでありえない状況だったとしても、文脈がある限りそこには解釈の余地が存在する。

 ちなみに「けつだいらアウォード」では、「たこやまよいかん(横山大観)」、「たこづなよかのはな(横綱貴乃花)」、「たこはまランドマークよわー(横浜ランドマークタワー)」など、入れ替えた結果「たこ」という文字列があらわれる作品ばっかり投稿してくるという人がいた。たぶんその人のなかでは「たこ」がものすごくツボに入る言葉だったのだろう(主催者に「もうたこはいいです」と一蹴されていたが)。「ツボに入る言葉」を決め打ちしてそれが隠されている言葉を探し回ってみるというのも一つの手だ。

 そんなわけで、入れ替えた結果意図せずに何らかの言葉が生まれてしまったパターンのものを挙げてみたい。

プロボクサー→ボロプクサー
猿の惑星→わるのさくせい
えなりかずき→かなりえずき
アントニオ猪木→イントニオあのき
武者小路実篤→さしゃのこうじむねあつ
メリル・ストリープ→スリル・メトリープ
バンプ・オブ・チキン→チンプ・オブ・バキン
松山坊っちゃんスタジアム→ぼつやままっちゃんスタジアム


次回も、スプーナリズムの「可笑しさを生む日本語の響き」の秘密に迫ります!