審査員に「悔いはないの? 1個でも出してみなよ」と言われても「ないものはないです」と押し通した(スポニチアネックス 2023年1月30日)。だが、内心は穏やかではなかった。このとき初めて「自分はこんなにもできないんだ」「私って不器用なんだ」と自分に向き合ったという(MANTANWEB 2023年1月8日)。
劣等感にまみれていた。笑うのも、大声を出すのも、誰かと打ち解けて話すことも苦手だった。仕事のオーディションはほとんど落ちていたという。レッスンを受けて泣いて、帰りの電車でもマネージャーに怒られて泣いて、の繰り返しの日々。女優を辞めたいと思ったことも一度や二度ではなかった。14歳のときのインタビューでは「東宝シンデレラという冠の重圧」について問われて、「迷惑はかけたくないです」と答えている(マイナビニュース 2015年5月23日)。
「もっと頑張るんだ」の源泉
不器用さと劣等感は「負けず嫌いな性格」で跳ね返した。当時を「『もっと頑張るんだ』みたいなのは、劣等感から生まれているものでもあると思う」と振り返る(TBS『新・情報7daysニュースキャスター』2021年6月12日)。
レッスンの先生から「あなたは器用じゃないから人が1回やってできることも100回やらないとできないんだよ。でも100回やってできるようになったことは1回でできる人よりも体に染みるし、あなたのためになるから」と言われたことも励みになった(TBS『日曜日の初耳学』2021年4月25日)。
『君の膵臓をたべたい』で演じた膵臓の病に冒された少女・桜良は、いつも天真爛漫で透明感あふれるヒロインだ。「私は静かなタイプで真逆」と語る浜辺は、コミカルでテンポの良い会話がまったく上手くいかずに何度もテイクを重ねたという。
表面的には明るいが、ふとしたときに孤独と恐怖が顔を覗かせる桜良を演じるため、苦悩しながらリハーサルを重ねていき、作品を完成させた。浜辺は“努力の人”であることがよくわかる。
「役を演じることで、自分を解放できた」
『らんまん』での浜辺についてのエピソードを見聞きすると、苦悩と劣等感にまみれていた10代の頃とはまったく異なる印象を受ける。
藤丸次郎役を演じた前原瑞樹はずっと年下の浜辺について「まだ23歳なのに、すでに大御所感あるというか、とても落ち着いています。神木君のお芝居にもアドリブにも、どんと構えて受けて演じられていたのが印象的です」と語る。