ヒーローのようで実はヒロインのように護られている万太郎と、ヒロインのようで実はヒーローのような寿恵子。どちらもこれまでの朝ドラの類型的な主人公とはかけ離れた登場人物だ。仲睦まじい彼らを微笑ましく見つめている視聴者は、いつの間にか少しだけ自由な気持ちになる。
寿恵子の可憐さ、強さ、明るさ…『らんまん』を随所でひっぱった“浜辺美波”という存在
寿恵子を演じた浜辺は、野の花のような可憐さ、踏まれても生えてくる草木のような強さ、太陽のような明るさをドラマの中で存分に表現していた。
可憐さは一目でわかる。真正面から顔を捉えたカットが何度も印象的に使われていた。凛とした表情もいいが、クシャッとした笑顔も安心感がある。
前半ではドレス姿も披露していた。日本髪で真っ白な洋装に身を包み、ゆっくり振り返るさまの美しさは印象的で、大畑印刷所の佳代(田村芽実)が思わず見とれて“寿恵子推し”になってしまうのもよくわかる。
澄ましているだけでもない。愛読書の『南総里見八犬伝』を読みながら「私、草むらになりたい!」と悶絶したり、「ふひひっ」と笑ったり、「たしかにー!」と現代風のイントネーションで相槌を打ったりと、とにかく親しみやすい。
強さの表現にも惹きつけられる。繰り返しやってくる逆境でも、けっして強い眼差しを失わない。神木は浜辺について「魅力は目。肝が据わっているというか、何かに立ち向かうときとか、果敢に前に行くような鋭く強い目をされることもある」と言及している(「土スタ」7月1日)。
56話でプロポーズの返事として「図鑑、必ず完成させてください」と迫る場面では、強い眼差しと満面の笑顔がめまぐるしく入れ替わって万太郎を圧倒した。横で見ていた堀井丈之助(山脇辰哉)が、つい寿恵子に「俺を“嫁さん”にしてくれ!」と叫んでしまった気持ちもよくわかる。
新橋の料亭で働きはじめ、その後、渋谷に「待合茶屋」を出店して成功させるまでの一連のエピソードは、完全に寿恵子が主役だった。弘法湯の主人(井上順)ら渋谷の人々を前に町おこし計画を語る115話は、寿恵子の明るさと親しみやすさと強さが全編にわたって表現されている。『らんまん』全体の中で週平均視聴率がもっとも高かったのは、この第23週「ヤマモモ」の17.8%だった。