浜辺美波の躍進がすさまじい。「2023年を代表する俳優は誰?」と問われたら、「浜辺美波」と答えてもいいのではないだろうか。

 今年3月に公開された庵野秀明監督『シン・仮面ライダー』でヒロインを務め、朝の連続テレビ小説『らんまん』ではほとんど主役のような準主役、そして11月に公開される山崎貴監督『ゴジラ-1.0』でもヒロインを演じる。

 1年間で、仮面ライダー、朝ドラ、ゴジラに主演級で連続出演した俳優がこれまでいただろうか? もはや『紅白歌合戦』の司会に抜擢されても驚きはない。それぐらいの勢いである。

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 とりわけ目立っていたのが、最終回を迎えた『らんまん』での好演だ。

ヒーローのようでヒロイン、ヒロインのようでヒーロー

『らんまん』は、植物学者・牧野富太郎をモデルに、神木隆之介演じる主人公・槙野万太郎の生涯を描いている。本作では浜辺美波演じる妻の寿恵子がもう一人の主役のように扱われていたのが新鮮だった。

 万太郎は、明治時代の男性の規範からは完全にドロップアウトした人物として描かれている。

 故郷の家業を継ぐことを放棄し、好きな植物学に全身全霊で打ち込むが、稼ぎはほとんどなく、立身出世もできなければ、わかりやすい成功も収めない。おまけに、子どもが生まれたばかりでも妻子を置いて数ヶ月も採集旅行に出かけていってしまう。まったくどうかしている人物なのだが、とにかく優しく、いつも笑顔で、家族と仲間、そして植物を愛している。

 一方、寿恵子は懸命に働いて夫と家庭を支えるのだが、「夫に尽くしている」「夫の犠牲になっている」ように見えないのが大きなポイントだった。

 冒険を愛し、「知らない世界」を見てみたかった寿恵子は、万太郎の夢を叶えるために、ともに人生を歩むことが自分にとっての冒険だと認識する。何かを捨てたり、何かに耐えたりしながら家庭を守るだけでなく、何事にも果敢に挑戦して、自分で店を出し、人と人をつないで成功させ、万太郎のために広大な土地を購入してやるのだ。寿恵子は自分の人生を自分で選択して、それをやり遂げた。

 脚本の長田育恵は「寿恵子はいわばヒーロー」と表現する(産経新聞 9月25日)。浜辺は17歳のときに「助けられる役が多いので、誰かを救うヒーローもやりたい」(スポニチアネックス 2018年7月9日)と語っていたが、その願望は『らんまん』で叶えたことになる。