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2015年W杯、南アフリカ戦前夜の“出来事”

 2015年W杯。南アフリカ戦前夜のことである。

 イングランドのブライトンに滞在する日本代表のもとに、トップリーグ全チームからの応援メッセージが届いた。

2015年、ラグビーW杯イングランド大会・南アフリカ戦で日本の勝利をチームメートと喜ぶ五郎丸歩 ©getty

 廣瀬が、慶應大の後輩でトップリーグキャプテン会議の代表をつとめるキヤノンイーグルスの和田拓や、菊谷崇に制作をお願いした映像だった。

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 あの映像には二つの意味があったと廣瀬はよどみなく説明する。

「まずは日本代表メンバーに、トップリーグの仲間たちが応援してくれていると実感してほしかった。ぼくたちはみんなの代表なんだ、と。もう一つ。日本のラグビー選手にも、応援メッセージを送ることで、日本代表とつながっていると感じてほしかった。日本代表はオレたちの代表だと思ってほしかったんです」

 様々な「場」を設け、チームのなかにそれぞれの居場所をつくる。それは海外出身選手との融合を目指す日本代表という一つのチームに限定する考え方ではない。日本ラグビー全体にも波及する力を持っていた。しかもそれだけに止まらない。

 日本代表のお互いに認め合える場を設けた取り組みは、好むと好まざるとにかかわらず、外国人を大量に受け入れる日本社会に必要な考え方だと思うのだ。

1次リーグ日本対サモア戦。後半、円陣を組んで声をかけるキャプテンの姫野和樹(中央) ©時事通信社

 廣瀬は話をこう締めくくってくれた。

「ぼくは、日本代表チームをよくするにはどうするべきかだけを考えていました。でも、いま思えば、社会に横展開できそうな考え方ですね。様々な国や言語の人たちがそれぞれの目標を持って来日してくる。そう考えていくと、ラグビー日本代表のあり方は、これからの日本社会でも再現性が高いかもしれません」

 平成の次の元号は令和――。

 廣瀬に話を聞いたのは、令和発表の数時間後のことである。そして事実上の移民政策と言える外国人労働者受け入れ拡大がスタートした日でもあった。

 ラグビー日本代表のあり方を、私たちは社会にどう活かすことができるだろうか。

「寛容でありたい」

 廣瀬が発した一言が、頭に残ってしばらく離れなかった。