ラグビーW杯フランス大会、日本は1次リーグの第3戦でサモアに勝利。2大会連続の1次リーグ突破をかけて、10月8日にアルゼンチンと対戦する。
今回の日本代表33人のうち、海外出身の選手は16人にのぼる。前回、2019年のW杯で日本代表のキャプテンを務めたリーチマイケルについて、「マイケルは言葉の問題を気にして、キャプテンは純粋な日本人の方がいいのではないかと考えていたようですね。でもぼくがキャプテンのころから、マイケルが外国人選手と日本人選手の接着剤の役割を果たしてくれていました」と前任のキャプテン・廣瀬俊朗は語っていた。
ノンフィクションライターの山川徹氏による『国境を越えたスクラム』(中公文庫)の一部を抜粋して紹介する。(全2回の2回目/前編から続く)
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スパイクを磨く時間でチームの和を育む
廣瀬たちは海外出身選手たちをどのような形でチームに受け入れていったのか。
「お互いに認め合える場を設けたんです」と廣瀬は答える。
東芝では試合前日のミーティング後、スパイクを磨く時間を設けていた。全員で輪になって、スパイクを見せ合いながら冗談を言ったり、くだらない話で盛りあがったりする。
「そんな時間がチームの和を育んでいくと思ったんです。これは準備の象徴のような話ですが、試合前、整列してから相手の選手とグラウンドに入っていく。相手のスパイクよりもきれいだと不思議と自信がわく。そんな気持ちを大切にしたいなと考えて、代表でも全員でスパイクを磨く時間をつくりました」
朝にその国の選手のスラングで挨拶
ぼくが個人的に大切にしていたのは……と、廣瀬はスマホを手に、何かを検索しはじめた。
「各国に『ハイ、ブラザー』みたいな砕けた言い方があるんですよ。ニュージーランドは『ハイ、ブロー』で、オーストラリアは『ハイ、マイト』。サモアが『ハイ、ウソ』。そしてトンガは確か……」
廣瀬は「これですね」とスマホの画面を見せた。
〈トコはスラングで兄弟を意味します〉
「そうそう、トンガが『ハイ、トコ』。はじめてきた選手や、朝にその国の選手のスラングであいさつしていました。ほんのちょっとしたことですが、このチームはみんなに対して、オープンなんですよ、と知ってほしかった。それに、いろんな考えの人やルーツが異なる人とたくさん接することができたのは純粋に楽しかったし、勉強になった。お互いに歩み寄れるような雰囲気をつくりたかったんです。常に、寛容でありたいな、と」