トップ棋士との距離は少しずつつかみ始めていた
20年度の成績は7勝4敗。圧巻だったのはデビュー2年目の21年度だ。新人王戦で優勝。王位リーグ入りを果たし、強豪を相手に3勝2敗で勝ち越した。そして順位戦でもC級1組への昇級を決めた。1期抜けは藤井聡太以来だった。何がすごかったかと言えば勝率だ。45勝10敗で、8割1分8厘。藤井を抜いて年間勝率1位となった。これにより、藤井がデビュー以来続けていた年度勝率1位の記録を連続4年で止めたのである。
「もちろん勝率1位を取れたことは嬉しかったです。ただそこまでトップ棋士との対戦は多くなかったので、そういう意味ではこれから先が大事なのかなと思っています」と伊藤は冷静に話す。確かにトップ棋士ばかりと対戦する藤井とは意味合いが違うが、それでも誰も成し遂げられなかったことを実現したのだ。
22年度の成績は37勝14敗で、勝率ランキングは6位。決して悪くはないが、22年9月に話を訊いた際には「最近はかなり負けが込んでいるので正直、焦りはあります」と率直に話していた。伊藤がはるか上を見据えていることの証拠だ。その後、棋王戦ではベスト4に進出するも、準決勝で羽生善治に、敗者復活戦で藤井聡太に敗れた。とはいえトップ棋士との距離は少しずつつかみ始めていた。自分には何が足りなくて、どうすればいいのか。若手時代にトップ棋士と対戦することは、一生の財産になる。
23年度、ついに伊藤はブレイクを果たした。竜王ランキング戦5組で優勝。決勝トーナメントに進出し、5連勝で挑戦者決定戦に進出した。決勝トーナメントの左ヤマは1組の強豪棋士が3人も待ち構えており、それを突破して挑決に進出した者は過去に1人だけで、それに続いた。伊藤が次のフェーズに進んだことは明らかだった。