村、というと大都市の正反対、といったイメージがある。実のところこれはイメージなんかじゃなく、人もビルも住宅もあらゆるものが窮屈にひしめく大都会に対して、村はだいたい山、田んぼ、畑……。人はまばらで民家もぽつんぽつん。大きなビルなんてないし、鉄道だって通っていないのが当たり前。まったくそのイメージに偽りはないし、村というのはつまりは大都市の正反対なのである。

 だから、村があるのは大都市から遠く離れているのがふつうだ。たとえば、東京都にもいくつかの村がある。ほとんどは小笠原とか新島とか、島嶼部だ。

 ひとつだけ多摩地域にも檜原村という村がある。奥多摩の山の中の村で、都心からの所要時間は電車とバスを乗り継いで2時間以上もかかる。大阪とタメを張るくらいの遠いところに、東京の村があるのだ。ほかの全国の村々だって、だいたい似たようなものである。

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 ところが、すべての村が必ずしも大都市から遠いわけでもない。愛知県名古屋市。日本三大都市のひとつに数えられる、人口200万人を超える大都市のすぐ近くにも、村がある。愛知県海部郡飛島村という。“飛鳥”ではなく“飛島”。鳥ではなく島である。読み方は「とびしま」だ。なんでも、“日本一の金持ち村”などとして知られているらしい。

 ……といった雑談を編集氏としていたら、「じゃあ何があるのか見てきてください」と言われてしまった。いくら名古屋市の近くといっても、村は村。電車に乗っていればいつかは着くような簡単な場所ではないのではなかろうか。

 あげくに編集氏は、「クルマとかタクシーじゃなくて、電車かバスで。乗り継いで行ってきてください」。あちこち旅をしながらモノを書く仕事というのは楽しそうに見えるかもしれないが、実はあんがい過酷で残酷なのである。

“日本でいちばんお金持ちの村”「飛島村」には何がある?

“日本でいちばんお金持ちの村”「飛島村」には何がある?

 そんなわけで飛島村を目指した。地図で見ると、名古屋市の南西の海沿いにあるようだ。名古屋の海沿いは工業地帯であり、日本有数の大港湾が広がっている。レゴランドや水族館などの集客施設もあるにはあるが、本質的には工業都市・港湾都市としての名古屋を決定づけているエリアといっていい。

今回の地図。飛島村は名古屋の西南、海に近いエリアだ

 飛島村は、そんなエリアに隣接する村だ。だから、この村も村と名乗りながらも工業都市、もとい工業村なのだろうか。

 飛島村には、もちろん鉄道は通っていない。別に鉄道の有無は村かそうでないかの境目でもなんでもなく、実際に鉄道が通っている村はたくさんある。が、少なくとも飛島村には鉄道がない。村に通じる公共交通は、バスだけということになる。