「こんなことを言うと劇場の方々からは怒られそうですけど…」
粉川 いろんなことをやっていきたいですね。作品のジャンルにこだわりはないですし、そもそも映画館という場にもこだわりがないんです。以前、「逗子海岸映画祭」に行ったときに、よく知らない昔の映画を観たのが、すごく良くって。海辺でビール片手に映画を見られるというイベントなんですが、そういった体験、作品との新しい出合い方を提供できるのって素晴らしいなと思います。
今は映画館のチケットが値上がりしてほとんどの劇場で「大人2000円」になりましたが、ネットフリックスをはじめとしたサブスクがどんどん良作を配信するなか、2000円を払って1本の映画を観るって、映画好きの私でもちょっと高いなと思うことがあります。
だから、映画館以外で、映画を用いて非日常を体験できる場を作りたいんですよね。こんなことを言うと劇場の方々からは怒られそうですけど(笑)。
——粉川さんの取り組みは「大作を作ってシネコンでどかっと大量に上映する」といった映画ビジネスの旧態的な構造からの脱却にもつながりそうですね。
粉川 自分でいろいろとやってみて思ったんですけど、製作者が何年も情熱をこめて作り上げてきたものが、上映してしまえば一瞬で終了し、配信が始まって……と、映画が消費されているような感覚があるんです。
でも、その一作にかける思いはそれぞれ強くあって、だからその作品を愛してくれている人のために、もう少し特別で新しい体験を、この先ずっと提供しつづけられたらうれしいと思っています。同じことをずっとやっていても意味がないですしね。
配給会社の懐事情として、特に今の時代、映画だけでマネタイズするのは難しいと実感しています。日本の映画市場は現在、年間1000~2000本上映して全体の興行収入は2000億円くらい。製作費用はそれぞれですが1億円かけられない場合は「低予算作品」扱いなので、よほど爆発的なヒットにならないと儲けるのは不可能です。
『ストールンプリンセス』に惹かれたのは、「アニメーションであればIP(知的財産)ビジネスもできるのではないか」と考えた点もあります。いまや映画館でただ上映するだけでは利益を生み出せない時代だと感じるんですよね。
とはいえ、「じゃあなにをやる?」って聞かれたときの答えはまだ見つかっていません。でも、いろんなことに挑戦していかないといけないと考えています。たとえばメタバース空間の中だけで上映する映画が生まれてもおもしろそうですよね。
——『ストールンプリンセス』の製作委員会は“年上の男性”が多かったとお聞きしますが、年齢や経験値などのギャップでやりにくい点などはありましたか?